『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』 半世紀前のマカロニ・ウエスタンのオリジナル版公開

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 1969年に『ウエスタン』の邦題で公開された、“マカロニ・ウエスタン”の巨匠セルジオ・レオーネ作品だ。ただし、当時は2時間21分の短縮版での公開だった。それを今年、タランティーノがタイトルを引用した新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を発表したことで、2時間45分のオリジナル版の公開が実現した。

 大陸横断鉄道の敷設が近づく開拓期の西部を舞台に、嫁いできた日に家族全員を殺され、広大な荒れ地の相続人となった元高級娼婦が、土地の利権を巡る男たちの争いに巻き込まれていく…。ヴィスコンティの超大作『山猫』を下敷きにしているが、本作の魅力は壮大なスケール感でも絢爛豪華さでもない。天井から落ちる水滴や顔にとまる蠅が執拗に描写される冒頭からも分かるように、人の気配や息づかい、汗の臭いまでも感じさせる細部にこそある。見せない演出や音の使い方も巧妙で、まさにそれはタランティーノ作品に通じる特徴。彼が影響を口にするのも当然なのだ。

 レオーネは、イーストウッド主演の“ドル箱3部作”で成功を収めた後ハリウッドに請われて本作を撮るのだが、既に西部劇には飽きていたらしい。そこで大きく方向性を変えて、自らの作家性を前面に押し出したわけだ。ジャンル映画でありながら生々しい手触りに満ちた異色の西部劇は、今も後進に影響を与え続けている。★★★★★(外山真也)

監督:セルジオ・レオーネ

出演:クラウディア・カルディナーレ、ヘンリー・フォンダ、ジェイソン・ロバーズ、チャールズ・ブロンソン

9月27日(金)から全国順次公開

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