『宮本から君へ』 観客をイライラさせる手腕は天才的!

(C)2019「宮本から君へ」製作委員会

 2018年4月クールに放送された池松壮亮主演ドラマの劇場版だ。テレビ版が新米サラリーマンの奮闘記だったのに対し、映画では年上の彼女との文字通り究極の“愛の試練”が繰り広げられる。監督は、誰彼かまわずケンカをふっかける若者を描いた『ディストラクション・ベイビーズ』の真利子哲也で、[R15+]指定の凶暴な野心作だ。

 原作は、バブル崩壊直前から連載され、主人公の宮本に対して読者から猛烈なバッシングがあったとされる伝説的な漫画。映画でも『報道ステーション』のスポーツニュースもかすむほどの暑苦しさで、ウザすぎて微塵も感情移入できない。しかも、それを蛇口からポタポタと水滴が落ちる金属音などの演出が倍増させる。真利子監督の観客をイライラさせる手腕は天才的だ。宮本が焼きそばパンを食べるだけでもイライラしてくる。

 もちろん本作の魅力は、不快感=異化効果が生む面白さや批評性だけではない。テロップを一切出さずに宮本の折れた前歯と腕のギプスだけで《時制》を混乱なく描き切る編集や、多用される《夜》のシーンの美しさ(撮影の四宮秀俊は塩田明彦監督作『さよならくちびる』の夜も秀逸だった)。何より、心臓をバクバクさせる《高層階》の非常階段での決闘。時間、空間、光と陰…映画の本質を鷲づかみにする真利子監督は、まさに映画を撮るために生まれてきたとしか思えない! ★★★★★(外山真也)

監督:真利子哲也

原作:新井英樹

出演:池松壮亮、蒼井優

9月27日(金)から全国公開

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