「ワクチン供給が不十分」——コンゴでのエボラ流行 WHOが阻むワクチン接種

1年以上にわたってエボラ出血熱の流行が続き、2100人の死者を出したコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)。この国でエボラの流行が止まらない原因の一つは、世界保健機関(WHO)がワクチンの供給に制限を設けている点にあると、国境なき医師団(MSF)は指摘する。MSFは、ワクチン接種プログラムの透明性を高めるため、第三者委員会の創設を呼びかけている。

エボラワクチン接種の準備をするMSFスタッフ © Louise Annaud/MSF

エボラワクチン接種の準備をするMSFスタッフ © Louise Annaud/MSF

届かないワクチン

コンゴ北東部で2018年から続いているエボラ流行による死亡率は67%。ここ数ヵ月で新規感染のペースは落ちてきてはいるものの、1年以上も流行が収まらない場所もある。また、長期間新しい症例が報告されなくなってから、再び流行が始まった場所もある。

問題は、エボラワクチン接種活動のペースが余りにも遅く、ワクチンが必要な人口のごく一部にしか届いていないことだ。その背景には、WHOのワクチン供給網の不透明さがある。WHOは、供給するワクチンの量に厳しい制限を設けているのだ。

コンゴ保健省とWHOは、これまでに約22万5000人に実験段階にあるメルク社製ワクチン「rVSV-ZEBOV」を接種した。このワクチンは高い有効性を示しているが、接種が完了したはずの地域に、流行が何度も“戻ってきている”という事実が示すとおり、ワクチンは必要な数には全く届いていない。

あらゆる条件はそろっている

「接種のペースを上げることが、喫緊の課題です。毎日少なくとも2000人~2500人に接種できるはずですが、現在は500人~1000人にとどまっています」と、MSFのオペレーション・ディレクターを務めるイザベル・ドゥフルニー医師は話す。

「安全性と有効性が証明されたワクチンがあり、接種を行う人材もそろっています。コールドチェーン(低温輸送システム)にも問題はありません。ワクチンの量についても、現在のニーズを満たした上で、接種対象を広げることが可能と、メーカーのメルク社が確約しています。それなのに、WHOはワクチンの量を制限し、はっきりした理由も示さずに接種資格を設けているのです」とドゥフルニー医師は続ける。

「地域社会の不信感や抵抗は、エボラ対策における障害としてしばしば指摘されてきました。実際には、援助を行う側が、“治療を受ければ治る、最近効果が証明された薬があり、生存率がぐっと高まっている”と声を大にして言えば、人びとは症状が出始めた時点で医療機関を受診することが分っています。死者が出ていることを地域のせいにすることはやめ、人びとが治療薬とワクチンを接種できる状況を徹底していく必要があるのです」とMSFの緊急対応コーディネーターを務めるナタリー・ロバーツは話す。

MSFが支援するエボラ一時滞在センター © Pablo Garrigos/MSF

MSFが支援するエボラ一時滞在センター © Pablo Garrigos/MSF

「コップ1杯の水で火事を消すようなもの」

MSFは接種拡大に向けて、保健省と協力し合い、諮問委員会の勧告に従ってきた。しかし今、WHOによる厳格な供給統制に阻まれている。接種予定者はあらかじめ指定されているため、リストに載っている人の分しか、活動地にワクチンが届かない。そのため、MSFの接種チームは少数のワクチンを受け取るために待つしかないのだ。

ロバート医師はこう話す。「エボラの対応は時間こそが命です。しかし今は、理解に苦しむほど厳格な供給体制のもと、限られた範囲でしかワクチン接種を行えません。消防士にバケツ1杯の水を渡して火を消せといっているようなものです。しかも実際は1日にコップ1杯の水しか使えないことになっているのです。エボラ患者と接触したとわかっているのにワクチンが届かない人を毎日目にしています。接種対象であるにもかかわらずです」

第三者による調整委員会の創設を

事態の解決には何が必要なのか。「実験段階にあるツールを最もよい形で使用するためには、透明性が鍵です」とロバート医師は話す。「今のワクチン供給体制は、MSFのように最前線で働く医療従事者にさえ透明性を確保していません。透明性が確保されなければ、コンゴの人びとにこの体制を信じてほしいと期待することはできません」

MSFは、第三者による国際的な調整委員会を早急に創設するよう呼びかける。この委員会の先行モデルは、1997年に立ち上げられた国際調整グループだ。構成員はMSF、国際赤十字赤新月社連盟、国連児童基金(ユニセフ)、WHOで、髄膜炎、コレラ、黄熱病が大流行し、ワクチン供給が限られていたときの成功例がある。この委員会は諸パートナーを引き合わせて接種の調整を改善するとともに、在庫管理面の透明性を高めてデータを共有し、メーカーとの対話を奨励・公開する。そして最終的には、エボラウイルスにさらされるリスクが最も高い人びと全員にワクチンが提供されるよう、徹底していく。

MSFはエボラ流行地で、治療のほか感染予防に取り組む © Pablo Garrigos/MSF

MSFはエボラ流行地で、治療のほか感染予防に取り組む © Pablo Garrigos/MSF

MSFは2018年8月に流行が宣言されて以来、コンゴ北東部でエボラに対応。数種類の対策を担っている。エボラ確定例と疑い例の治療、感染リスクが高いとされる職業につく人びと(医療スタッフ、宗教指導者、埋葬人など)、感染予防と制御策、地域の人びとへのアウトリーチ活動(※)などである。また、北キブ州とイトゥリ州では数え切れないほどの医療機関で活動することで、現地の人びとにとって、エボラの流行中も、一般診療を受けやすくしている。
※ 医療援助を必要としている人びとを見つけ出し、診察や治療を行う活動

© 特定非営利活動法人国境なき医師団日本