【破綻の構図】民事再生の(株)ひびき、架空売上で築いた金融機関との関係が脆くも崩壊

 埼玉県内を中心に「やきとりひびき」など焼鳥店30店舗を運営していた(株)ひびき(TSR企業コード:313846391、法人番号:9030001057689、川越市、日疋好春社長)が8月20日、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。負債は77億949万円だった。
 「地元東松山のみそだれやきとり」を旗印に、2005年に埼玉県ベンチャー企業優良製品コンテストに入賞。2007年にも同コンテスト入選。埼玉県東松山市や川越市の注目企業としてマスコミにもたびたび登場していた。
 だが、内実は父親の会社整理に伴う資金支援などで資金繰りが逼迫し、税金を滞納。これが表に出たことで粉飾決算に手を染めた。
 その後も、業績不振から抜け出せないなか、2018年には収益源の「全や連総本店TOKYO」(千代田区大手町)がテナントオーナー側の都合で撤退を迫られた。主力店舗の撤退で売上げはさらに落ち込み、打つ手もなくなり民事再生法の申請に追い込まれた。

 ひびきは1990年に日疋好春社長が広告企画業として創業し、1992年に法人化した。
 当初、イベント企画などを手掛けていたが、1994年に転機が訪れた。地元川越市の百貨店の催事に、1990年頃まで実父が経営していた焼鳥の模擬店を出店し、好評を得た。これを機に、1995年に川越市内で焼鳥の第1号店を開店。その後、焼鳥の製造・販売を中心とした事業に転換した。

粉飾に手を染めるきっかけ

 だが、決して順風満帆だったわけではない。事業拡大の裏で、安価な外国産鶏肉に押され、廃業した父親の事業失敗のツケに、会社の資金を流用していた。父への後ろ向き資金流出資金繰りは次第にひっ迫、多額の法人税滞納に追い込まれていた。
 表面上は本業の焼鳥の製造・販売が堅調な体裁だったが、内情は法人税滞納の解消に必死に努めていた。だが、2009年頃に信用失墜を招きかねない事態が襲った。
 法人税滞納の事実が金融機関に知られたのだ。法人税滞納の事実発覚で、金融機関は早期の滞納解消を求め、出来ない場合は取引継続を見合わせると通告してきた。
 これまで少しずつ税金滞納分を納付していたが、残債(約1,000万円)の全額納付までの余裕はなかった。追いつめられたひびきは、禁断の粉飾決算で急場を凌ぐことを決めた。

金融機関を欺き納税資金を調達

 金融機関から法人税滞納の早期解消を求められたひびきは、2010年6月期頃に約3,000万円の架空売上を計上した。実態より売上を嵩上げし、財務内容を良くすることで金融機関から納税資金を調達し、税金滞納を解消することができた。
 だが、これで窮状を抜け出したかに見えたひびきだったが、粉飾決算に一度手を付けると抜け出すことは難しいことを改めて証明することになる。
 2011年3月、東日本大震災の影響で業績が悪化した時にも、金融機関との関係維持のため架空売上を計上した。
 粉飾決算を隠すため、架空の売上により帳簿上の現金が増加したが、決算書上ではその現金を隠すため固定資産の取得を装うなど手の込んだ粉飾決算に嵌っていった。

ひびき庵(さいたまスパーアリーナ店)

‌ひびき庵(さいたまスーパーアリーナ店)

高評価がかえって経営負担に

 粉飾決算による見せかけの好業績は、逆にひびきが後戻りできない状況を自ら作り出していった。
 ひびきが作られた好業績と地場優良企業との評価の高まりで、金融機関は出店ペースの加速や企業買収を持ちかけた。本来はあり得ない厚い信用を得ることになった。
 偽りの決算書で築かれた金融機関との関係だったが、ひびきは良好な関係を維持するため、金融機関の要望に応えなければならなかった。こうして当初は年1店舗の出店ペースの計画のはずが、2013年以降は急速に出店スピードをあげ、年に約4店舗出店する無謀な経営に舵を切った。

負のスパイラルに転落へ

 粉飾決算で築かれた信用を維持するため、ひびきは急速に出店を進めた。だが、出店効果の見返りが少ないまま、むしろ店舗管理の人員増強などで経費負担が増大、経営は一段と圧迫されていった。
 さらに、2018年と2019年に立て続けに企業を買収した。だが、ひびきの事業とのシナジー効果は乏しく、買収費用やアドバイザリー費用が採算悪化に拍車をかけた。
 ひびきが負の連鎖に陥るなか、酒類の提供や配膳を効率化するため独自のサーバー機器の開発に着手していたが、開発費用が重く圧し掛かかることとなった。
 坂道を転げ落ちるひびきだったが、とどめは2018年に訪れた。会社の収益源でもあり、旗艦店でもあった「全や連総本店TOKYO」の撤退だ。自主再建を諦めたひびきは、民事再生法の下で、再建を目指すことになった。

 ひびきは、架空売上による粉飾決算で金融機関との関係を維持していた。だが、身の丈以上の経営を強いられ、急速な出店や立て続けにシナジー効果の乏しいM&Aに取り組まざるを得ない状況に追い込まれた。まさに自縄自縛の典型的な経営である。
 粉飾決算は、一時的に周囲を欺き危機を脱したかにみえても、根本的な原因は深みを増していく。
 8月20日に開催された債権者説明会で、日疋好春社長が粉飾決算を謝罪した。だが、粉飾決算のほか、多重リースもあったのではないかと厳しく指摘する債権者の声が場内に響いた。
 不透明な経営の成れの果てが民事再生法の申請だった。公私の区別をつけられなかった経営破綻は、再建に向けた一歩目から暗雲が立ち込めている。

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2019年9月27日号掲載予定「破綻の構図」を再編集)

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