『サンセット大通り』全キャストビジュアル公開! 撮影現場レポート&インタビュー!

天才作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーの最高傑作との呼び声も高いミュージカル、 『サンセット大通り』が2020年3月、 実に5年ぶりとなる待望の再々演を迎える。 1993年にロンドンで初演され、 翌年ブロードウェイに進出すると、 作品賞と主演女優賞を含む7部門で受賞の栄誉に輝いた作品。 日本では2012年に鈴木裕美演出、 安蘭けい主演により初演されて好評を博し、 2015年には濱田めぐみをWキャストに迎えて再演された。

この度の再々演でも、 ミュージカル界屈指の難役と言われる大女優ノーマ・デズモンド役はやはり、 安蘭けいと濱田めぐみのWキャスト。 ノーマが偏執的な想いを寄せる売れない脚本家のジョー役には、 新たに松下優也がキャスティングされて安蘭とコンビを組むほか、 2015年には安蘭と組んだ平方元基が濱田の相手役を務める。 8月某日、 Wノーマ&ジョーがビジュアル撮影に臨んだスタジオで、 濱田と平方の姿をキャッチ。 また、 支度中だった安蘭と松下を含めた4人から、 作品が動き出した今の心境を聞くことができた。

取材・文/町田麻子

平方のソロ、 ツーショット、 濱田のソロ、 という順番で行われた今回の撮影。 スーツをビシっと着こなし、 カメラに鋭い眼差しを送る平方はすっかりジョーという感じだが、 本人いわく「ジョーは稽古を重ねるなかでしか作れない役。 だから今日の姿は、 今の平方元基がカッコつけた最大級のバージョンです(笑)」とのこと。 愛嬌あふれるこの言葉の通り、 カメラが向けられていないところではスタッフと楽しそうに談笑し、 爽やかな笑顔を見せていた。

この“落差”は、 ツーショット撮影になるとさらに激しいものに。 同じ事務所の仲間で、 共演歴もある濱田と平方はなんとも親しげで、 撮影の合間のスタジオには常に二人の笑い声が響いている。 だがひとたび撮影が始まると、 二人とも表情が一変。 「ノーマとジョーの温度差を出したい」との演出を受け、 濱田は時に痛々しいほど恍惚とした笑みを浮かべ、 一方の平方は少し冷めた打算的な顔を覗かせる。 『サンセット大通り』の音楽が流れていたこともあり、 スタジオには既にラブ・サスペンスな作品世界が立ち現れていた。

ソロ撮影に移っても、 濱田は引き続き大女優のオーラを身にまとい、 目線や手つきなど細かい動きでノーマを表現していく。 だが撮影を終えて楽屋に戻ると、 ふと鏡に映った自身を見やり、 「久々にちゃんとメイクした!」とひと言。 「今『レ・ミ(ゼラブル)』中で、 ほぼすっぴんで舞台に出てるから慣れないです」と、 さっぱりとした笑顔を見せる。 この切り替えの速さもまた、 彼女が幅広い役を自分のものにできる理由のひとつなのだろう。

2015年の公演が終わった時には、 “やり切った感”とともに、 また次の機会もあればいいなとの思いも湧いていました。 というのも、 ノーマというのは年齢を重ねることで、 経験を反映させてさらに膨ませていける役。 実際この5年間で、 私も色々な経験をしてきました。 あまり人には言いたくないことですけれど、 年をとったな、 と感じることもあります。 あの頃できたことができないなとか、 ちょっと携帯が見えにくくなったなとか(笑)、 そういうリアルな実感を生かして、 また新しいノーマを作りたいと思っています。

初演はシングルでしたが、 再演はめぐちゃんとのWキャスト。 影響されないようにという裕美さんの方針で、 稽古はお互い全く見なかったんですが、 同じ役をやっている人がいると思うだけで刺激になって、 初演とはまた違う気持ちで取り組めていました。 私のほうが先に千秋楽を迎えたので、 めぐちゃんの千秋楽だけは観ることができたんですが、 稽古を見ていても影響されることは少なかったかもしれないと思うくらい、 本当に全然違っていましたね。

ジョー役の松下優也さんとは、 先ほど初めてご挨拶させていただきました。 だから本当に本当の“第一印象”になってしまうけれど(笑)、 イケメンなのに全然気取っていなくて、 親しく喋れそうだなと。 役作りをする時には密に話し合いたいから、 早い段階でグアっと扉を開けたいと思っています(笑)。 彼と一緒に、 私も初演や再演でやったことをなぞるのではなく、 もう一度新たに作るイメージで取り掛かりたい。 初演や再演も観てくださった方に「全然違うものになったね」と言われるくらい、 新しい『サンセット大通り』を作りたいなと思っていますので、 ぜひ期待していただきたいですね。

『サンセット大通り』は世界的に知られている作品ですし、 ノーマはグレン・クローズさんはじめ、 錚々たる女優の方がやってこられた役。 どうしても「私なんかが」と思ってしまうから、 前回は本当にいっぱいいっぱいで、 いつ始まっていつ終わったのかもあまり覚えていないくらいです。 ですから再演のお話をいただいた時は、 「うわぁ大丈夫かな」と(笑)。 5年経っていますから、 前回よりは落ち着いて取り掛かれると思いますが、 ノーマはきっと何度演じても、 私にとって“チャレンジ”であり続けるでしょうね。

年齢や経験が足りていないことに加えて、 ノーマが根底に持っている性質が私自身と真逆、 というのもその理由のひとつ。 先ほど「12のクイック・クエスチョン」で、 モットーを聞かれてとっさに「人はいつか死ぬ」と答えたんですが、 ノーマは多分、 「私だけは生き残ってやる!」という感じの人だと思うんですよ(笑)。 自分にないものを想像力などで補って、 研究して、 “演じる”ことが必要になってくる役。 もしかしたら、 私がそうやってもがいている様が、 お客様から観たらノーマと被ることもあるのかもしれません。

この作品自体、 簡単に「できました!」とは言えないというか、 ロイド=ウェバーの難攻不落の楽曲を含めて、 やればやるほど手が届かないところに行ってしまう作品。 新キャストの方も初演からの方も、 それぞれが課題を持ってこの再々演に挑むことになると思います。 私も徹底的に自分を追い込んで、 一番いい状態で舞台の上に乗りたいと思っていますので、 初演・再演をご覧になった方にもぜひまた、 今の『サンセット大通り』を味わっていただきたいですね。

今回のお話をいただいた時は、 驚きと喜びと同時に、 「俺にできるのか?」という気持ちになりました。 僕は音楽から入って、 映像をやったりストレートなお芝居をやったりと、 いわゆる“ミュージカル畑の人”ではないですからね。 でも最終的には、 俺が演じたらどうなるんだろうって、 自分自身が楽しみに思えたから出演を決めました。 郷に入れば郷に従うことはもちろん大事で、 ロイド=ウェバー作品にお客さんが何を求めているかは、 僕もちゃんと考えなくちゃいけない。 でもせっかく自分がやらせてもらうなら、 ブラックミュージックが大好きな僕ならではの表現を探したい、 とも思うんです。 そのバランスが難しいところですけど、 そこは僕が考えるより、 裕美さんにお任せしようかなと(笑)。 ロイド=ウェバー作品もですが、 Wキャストというのも人生で初めての経験なんですよ。 どんな気持ちかと聞かれたら、 “どんな気持ちになるんだろうっていう気持ち”としか答えられないくらい(笑)、 どういうものなのか全く分からない。 ライバルって感じになるのか、 元基君も頑張ってるから俺も頑張ろうってなるのか…。 ただ、 元基君は既に一度やられているんですよね。 それを考えると、 稽古を見たら真似してしまいそうだから、 僕は僕でジョー役に向き合って作っていったほうがいいのかなと、 今は思っています。

安蘭さんとは初共演ですが、 主演された『アリス・イン・ワンダーランド』を観たことがあって、 外からの勝手なイメージですけど、 スッとした硬派な感じの方なのかなと。 でも今日初めてお会いしたら、 めっちゃ関西弁やったんで(笑)、 ホッとしたし嬉しくなりました。 僕も普段は関西弁で話しているので、 仲良くできるかもしれないと思った…って言うとえらそうですけど(笑)、 関西弁同士、 いいコミュニケーションを取りながら作っていけたらと。 どんなノーマとジョーになるのか、 ぜひ劇場に確かめに来てください。

2015年に出演させていただいて以来、 インタビュー等でターニングポイントになった作品を聞かれると、 よく挙げていたのがこの『サンセット大通り』でした。 それくらい僕にとって、 それまで見えていなかったものが見えた作品で…あ、 幽霊とかっていうことじゃないですよ(笑)? 日本ではそこまで有名じゃないかもしれないけれど、 ミュージカルの“ブランド品”のようなところがあるこの繊細な作品を、 どう日本人の心に落とし込めるように調理して提供するのか。 初演を超えなきゃいけないというプレッシャーの中で、 再演から参加する僕たちは何をするべきなのか。 そこに向かって戦っていくベクトルの、 長さなのか太さなのか強さなのかがほかの作品とは違っている気がして、 役者としての視野が広がった作品なんです。 終わってすぐ、 またあの世界に入りたいと思ったし、 裕美さんや共演者の方と会うたびにそう話してもいたから、 再びジョー役に挑めると聞いた時は「言霊が通じた!」と思いました。

前回は、 最初はみんな一緒に稽古してたんですけど、 僕と柿澤(勇人)のジョーが似通って来ちゃってるところがあったみたいで、 途中からチームごとの稽古になったんですよね。 意識はしてなくても、 お互い聞いた通りに歌ったり喋ったりしてしまっていたみたいです。 だからめぐさんのノーマも、 舞台稽古中にチラッと垣間見ただけ。 「ダメだ、 これ以上見たら柿澤に影響される!」と思って一瞬でやめたんですけど、 それでも、 なんだか恐ろしそうなノーマだったことは覚えてます(笑)。 相手役が替わることは、 自分のなかでけじめがつけられるというか、 前回どうだったかを考えないでいられるから、 僕にとってはいいこと。 瞳子さん(安蘭)と作ったものには愛着があるし、 きっと懐かしくはなると思うけど、 これからはめぐさんと作るものがすべてだと思っています。 めぐさんノーマにボコボコにされて撃ち抜かれるのが、 今から楽しみですね(笑)。

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