日本の大金星

 見ない、言わない、聞かない。これらは目を閉じ、口を結び、耳をふさげばできる。「思わない」のは難しい。無心になれ、と言われてなれるものではなく、むしろ考え込んでしまうものだろう▲これまで9回対戦して1勝もできずにいた。胸を借りるつもりで臨んだか、戦術を考えに考え抜いたか。「思わない」わけにはいかなかった選手たちが力を出し切った結果だろう。ラグビーのワールドカップ(W杯)で日本がアイルランドを破る大金星を挙げた▲3点差を追って前半を折り返し、世界ランキング2位の強豪に食らいつく。後半に逆転のトライを挙げ、堅く守って反撃を封じる。そんな試合展開は、相手に食らいついては攻め続け、体を張って守り抜く日本の戦いぶりと、全く重なるようだった▲優勝2度の南アフリカを破った前大会の番狂わせを思い起こす。「奇跡」といわれたが、今回はどうやらそうではない。はなから「勝つ意気込みがある」と選手は語っていた▲気力や気迫に満ち、重圧や緊張もあった大一番に違いない。あれこれ思いを抱いてこの日を迎え、試合では無心に、精神集中して、歴史的勝利を手にしたのだろう▲また一つ、日本が新たな明かりをともした。応援する身が「思わない」のはやはり難しく、目標の8強進出を思わずにいられない。(徹)

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