「阿部さんがいたから21年間出来た」―日ハム實松が秘める感謝の思い

現役引退した日本ハム・實松一成【写真:石川加奈子】

「阿部さんがいたから自分の生き残る術を模索することが出来た」

 日本ハム・實松一成ファーム育成コーチ兼捕手が今季限りで現役引退した。巨人時代には阿部慎之助捕手の2番手捕手として、12年からのリーグ3連覇に貢献。通算511試合出場、137安打、20本塁打と決して目立つ打撃成績ではないが、21年間を戦い抜いた秘訣は何だったのだろうか。

 絶対的正捕手・阿部がいなかったらレギュラーだった――。實松はそんな世間の見立てを振り払うかのように口を開いた。

「阿部さんがいたからこそ、自分の生き残る術を模索することが出来た。阿部さんがいたから21年間出来たと思っている」

 ナイター時は6時間以上も前に球場入り。体の強化、メンテナンスに対戦相手のデータ収集。試合中はベンチからの相手の観察を欠かさない。巨人時代に同僚から「準備の鬼」とまで言われたが、当初は違ったという。06年に日本ハムから巨人へ移籍した時には阿部が正捕手に君臨。控え捕手の座もつかめず、他の選手を妬むばかりだったという。

「あいつが打った、打たないとか凄い気にしていた。例えば(元巨人の)加藤(健)とか他の捕手が1軍の試合に出る時とかあるわけじゃん。そういう時に打ったのかな、打たなかったのかなと気にしてばかり。他の選手の成績ばかり気にしていた」

 巨人時代の09年は1軍出場なし。同年オフは「クビを覚悟していた」という。考え方の切り替えが、その後の野球人生を変えた。

転機となった意識の変化「なんでオレは人のことばかり気にしているのかな」

「ふとした時に、『なんでオレは人のことばかり気にしているのかな』と。自分のことをやればいい、他の選手が打ったら打ったでいいじゃないか、と。そこからかな。他の選手のことを気にしないようになって、自分のことばかり考えるようになったのは。自分勝手にやるのとは違うよ。そうではなくて、とにかく自分のことをしっかりやることに集中するようにした」

「いきなり『阿部さんを追い抜いてレギュラーになります』というわけにはいかない。現実を考えたら。『自分がプロ野球界で生き残っていくためには』と考えた時に、守備でとか、バックアップでとかを考えるようになって……。そう考えると、後ろで投げるリリーフ投手と自然とコミュニケーションが多くなった。阿部さんと違うものをわざと出すのではなく、自分のしっかりとした考えを持って試合に臨めるように。データ研究や観察を大事にするようになった」

 個人の打撃成績は決して目立つ数字ではない。それでも、プロ生活21年間を走り抜いたことは誇りだ。

「結果として21年も出来た。あの時、考え方を変えられたことは間違いではなかった。オレには合っていたのかなと。いろんな考え方があって、自分に合う考え方、やり方はある。そういうのを勉強して、いろんなタイプの人にいいアドバイスが出来るようになれば。技術では追いかけないといけないんだけど、それだけではないと思う」

 實松の次なる舞台は後進の育成だろう。控え選手ながらも、プロで長くチームに貢献することができた。この経験を無駄にするつもりはない。(小谷真弥 / Masaya Kotani)

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