パブコメに意見殺到、どうなる川崎市ヘイト条例

 全国初の刑事罰盛り込みに高まる関心

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8月3日、JR川崎駅前で条例に対するパブリックコメントで賛同意見の提出を呼び掛ける市民団体

 川崎市は、刑事罰を盛り込んだ差別禁止条例の素案を公表した。ヘイトスピーチ対策の強化が目的で、実現すれば全国初となる。市は7~8月にパブリックコメント(意見公募)を実施、すると1万8千通もの意見が寄せられた。これまでの意見公募では通常、数十~百件程度で、市の担当者も「桁が違う」と殺到ぶりに仰天している。膨大な数の意見には賛成も反対もあるという。これほどの関心を集めるのはなぜか。そして条例は今後、どうなるのか。

 ▽反対派も賛成派も、意見提出呼び掛け

 条例反対派は8月1日、ブログで「左翼と在日朝鮮人のやりたい放題を阻止しよう」「左翼暴力に支配された恐るべき未来」などと訴え、反対意見を提出するよう呼び掛けた。

 このブログの主催者らは、過去に公園で計画したデモが川崎市に許可されなかったことがある。主催者らは5月、「表現の自由の侵害」として損害賠償を市に求めて提訴。横浜地裁川崎支部で裁判が続いている。

 条例支持派は反対派の動きに危機感を募らせる。「反対派は意見公募に組織的に投稿している」として、8月3日にはJR川崎駅前で条例に賛成する意見の提出を呼び掛けた。

 市民団体「ヘイトスピーチを許さない かわさき市民ネットワーク」の三浦知人(みうら・ともひと)事務局長は「市は差別主義者を罰する画期的な条例素案を準備した。賛同の声を寄せてほしい」と駅前で訴えた。

 ▽日韓関係悪化が影響?

 意見公募の締め切りを3日後に控えた8月6日、福田紀彦(ふくだ・のりひこ)市長は記者会見で、賛成、反対とも多数の意見が寄せられていることを明らかにした。ただ、中には条例素案を見ていないと思われる意見もかなりあるといい、「素案をぜひ読んでほしい」と呼び掛けた。

8月6日、定例記者会見で条例について話す川崎市の福田紀彦市長

 意見公募の過熱は、最近の日韓関係を巡る緊張の高まりが影響しているのではないかとの見方もある。しかし、福田市長は「外交問題と条例は全くの別物。連動させるのはおかしい。冷静に、理論的に議会との議論を進めていきたい」と強調した。川崎市内で過去にあったヘイトデモでは、在日コリアンらが狙われた。条例はあくまで市民を守るため、という立場を取っている。

 寄せられた意見は1万8千通超。1通に複数の意見が記載されることもあり、最終的な意見の数は数万件に上る見込みだ。

 あまりに反対が多いと草案の内容が後退する可能性もある。福田市長は8月19日の記者会見では「賛意を示す声が多い。賛成、反対どちらの意見もしっかり受け止めていく」と語った。市は意見公募の具体的な結果を11月に公表し、それを踏まえて12月の市議会に条例案を提出、年内に制定する―とのスケジュールを描く。

 

7月24日、条例について話し合う川崎市人権施策推進協議会メンバーら

▽懸念は「表現の自由」と「差別」の線引き

 今後の焦点は、市議会でどれほどの賛成を得られるかに移る。福田市長は以前から「全会一致での成立」を目指すと公言してきた。だが、憲法が保障する「表現の自由」が脅かされかねないとの懸念を示す声は根強い。

 実際、6月24日にあった市議会の委員会では、市側から素案の説明を受けた自民党市議が、従軍慰安婦問題や徴用工問題を挙げて「堂々と声を上げていくべき問題は多々ある。罰則を規定する以上、表現の自由を萎縮させないようにする配慮が必要だ」と主張した。

 川崎市が刑事罰を設ける背景には、16年に施行されたヘイトスピーチ対策法が罰則規定のない「理念法」にとどまり、ヘイトデモや差別表現を防止できていないことへの危機感がある。このため、条例案では道路や公園、駅での不当な差別的言動を禁じ、違反を繰り返した場合に50万円以下の罰金を科すとした。一方で、捜査当局や裁判所の判断を仰ぐ仕組みを取り入れたことで、表現の自由にも配慮したと川崎市は強調する。

 ただ、市長の諮問機関「川崎市人権施策推進協議会」でも、委員から「特定の表現行為に罰則を設けて規制することは反対」との意見は出ている。意見集約の難しさが改めて浮き彫りになっている。(共同通信ヘイト問題取材班)