J-WAVE の開局とバーシアの歌声、新時代の到来を告げた 渋谷・西麻布・六本木…  1988年 10月1日 J-WAVEが開局した日

リマインダー読者の方々は覚えていらっしゃる方が多いと思うが、かつて六本木には WAVE というショップがあった。現在はちょうど六本木ヒルズの表玄関、メトロハットのあたりにそれはあった。基本的には CD ショップなのだが、音楽のジャンルごとにフロアが分かれ、CD のみならず音楽に関する書籍や楽器、スタジオまであり、音楽をメインコンテンツとしたカルチャー発信基地という雰囲気が漂っていた。

何でも首を突っ込みたがるダボハゼのような音楽ファンである私にとっては、うっかりすると軽く半日ぐらい過ごしてしまうほど退屈しない場所でもあった。この WAVE の経営母体は西武セゾングループ。バブル経済下でカルチャー拡大路線を突き進み、莫大な消費を生み出した一大流通グループであり、WAVEもその一つの象徴であった。

1988年、都内に新しい民放FM局 J-WAVE が誕生し、西麻布を拠点に10月1日より放送を開始する。音楽ファンが待ちに待った開局であったが、実はこの J-WAVE にもセゾングループが資本参加していることは、あまり知られていないと思う。しばらくしてから何かのついでに株主構成を見て知ったぐらいで、当時はまったく気に留めていなかった。渋谷を情報発信の拠点としたセゾングループが参画する新しい FM局が、六本木WAVE とのちょうど中間に位置する西麻布に開設されたのだから、何ともできすぎた話ではないか。

やがて開局まもない J-WAVE を聴いていると、ひときわ印象に残る女性ヴォーカルの歌声をよく耳にした。「♪ The best is yet to come~」と歌う伸びやかな声色がなぜかとても心に響いたのだ。「これ誰の曲?」すぐに受話器を手に取る。

今では放送局のホームページでリアルタイムで曲名を確認できるのが当たり前になっているが、当時はまだ電話頼みだ。有線放送が流れる店舗では、お店に頼んで曲名を訊ねることがあったが、FM局でこの辺の電話対応を充実させていたのは、いちいち曲紹介をしていない J-WAVE ならではの取組みだったのではないだろうか。

とにかく声の主は BASIA。ベイシアと読んではいけない。それは群馬のスーパーの名前だ。これでバーシアと読むのである。曲名は「ニュー・デイ・フォー・ユー」ということがわかった。何とも晴れやかなタイトルではないか。バーシアは英国の “おしゃれラテン”(と勝手なカテゴライズ)グループ、マット・ビアンコから独立してソロになったばかり。思い起こせば、その数年前のヒット曲「Whose side are you on ?」(邦題は「探偵物語」という明らかに何かに寄せてつけられたタイトル)でのコーラスの歌声として聴き覚えがある声だった。

彼女のデビューアルバム『タイム・アンド・タイド』には、やはりマット・ビアンコのオリジナルメンバーで、同時期に脱退したダニー・ホワイトも参加しており、その奏でるサウンドはまさにマット時代そのもの。収録曲でもあった「ニュー・デイ・フォー・ユー」のキャッチーなタイトル、インパクトのある歌声に魅了され、すぐに CD を買い求めたと記憶している。自分の中では J-WAVE が提供する新しい時代のリスニングスタイルの登場と共に記憶される一曲となった。

また、彼女は何とこの楽曲を使用したパルコのテレビ CM に出演している。狙ったのかどうか、セゾングループ銘柄での採用である。記憶があいまいで順不同なのだが、出資企業の CM 曲「ニュー・デイ・フォー・ユー」を局がプッシュしていたとすると、さもありなんというわけだ。

その後、発売となったバーシアのセカンドアルバムのタイトルは『ロンドン、ワルシャワ、ニューヨーク』…… 何でワルシャワ? ワルシャワは彼女の母国ポーランドの首都。ロンドンはマット・ビアンコの本拠地。ニューヨークはソロとなった彼女の新天地ということだろう。ここに記したエピソードの関係性から、このコラムタイトルにも「渋谷、西麻布、六本木」と地名を並べてみたのだが、いかがだろうか(笑)。

※2017年1月4日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: goo_chan

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