抗がん剤が有機半導体材料になる、京都大学がDNA結合剤の新機能開拓

京都大学の崔旭鎮博士課程学生(現:韓国 POSTECH研究員)、関修平教授らのグループは、米国イリノイ大学、ベルギー・モンス大学と共同で、抗がん剤のDNA結合剤エリプチシンが高い電荷輸送特性を示し、有機半導体としても優れた材料となることを発見した。

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エリプチシンはDNAの塩基間に入り込みDNAの複製を妨げて抗がん作用を生じる。有機半導体の必須の特徴であるπ共役性と、生体分子によく見られる水素結合性を併せ持つ分子だ。一般に、水素結合を持つ分子は高い熱力学的安定性を持つが、高い伝導特性は期待できないことが多い。今回、エリプチシンのDNAに入り込むための高い平面性と強い水素結合性による高結晶性を活かし、配向方向の揃ったエリプチシン薄膜を作製。この結晶が、優れた特性を示す有機半導体と同程度のπ-π相互作用を持つことを量子化学計算結果より示した。この過程で、水素結合はエリプチシン分子が寄り集まるための原動力であり、水素結合がないとすると分子間距離は2倍にも離れ、電子相互作用が激減すると予測された。一方、水素結合は分子間距離を縮めるだけでなく、水素結合を通した電子移動相互作用も高いことを計算結果より確認した。この実験的な検証として、マイクロ波を用いて薄膜の伝導度を測定すると、π共役の折り重なる方向への伝導度が水素結合方向より1.5倍程度大きかった。また、見積もられた電荷移動度や測定した伝導度も代表的な有機半導体のペンタセンと同程度であり、エリプチシンはその優れた有機半導体特性を示した。今後は生体分子を用いたトランジスタや肺がんの生物指標化合物である酢酸エチルを検知する化学センサーなどを開発する予定という。論文情報:

【Nature Communication】Repurposing DNA Binding Agents as H-bonded Organic Semiconductors

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