クマに襲われけが 宇奈月、北電社員 鉄塔点検中

男性が襲われた現場付近。手前右側から山に入り、奥の鉄塔に向かう途中で襲われた =1日午後3時45分ごろ、黒部市宇奈月町中ノ口

 1日午後2時10分ごろ、黒部市宇奈月町中ノ口の愛本発電所付近で、鉄塔の管理に向かっていた北陸電力社員の男性(25)がクマに襲われ、左前腕部をかまれた。黒部市民病院に運ばれたが、縫合などの必要がない軽傷とみられる。県内でのクマによる人身被害は今年2件目。

 市や黒部署などによると、男性は後輩社員(19)と2人で、送電線鉄塔の点検と調査に向かうため、山林内を歩いていると、茂みから飛び出してきたクマに襲われた。クマは山側へ逃げ、後輩社員にけがはなかった。2人は自力で最寄りの入善署舟見駐在所に駆け込んだ。クマは体長約1メートル70センチの成獣とみられる。

 現場は黒部川右岸にある愛本発電所そばの山林で、関係者以外は立ち入り禁止となっている。市猟友会宇奈月支部の野村春幸支部長(71)は「この辺りはクルミの木が多く、クマがよく出る」と言う。

 北電によると、2人はクマよけの鈴を付けるなど対策をとっていた。北電は「今後も対策を徹底していきたい」としている。

 県内では、9月22日に富山市大沢野地域でクマと遭遇した男性が転倒して大けがを負い、県は約2年ぶりにツキノワグマ出没警報を発令した。

 県自然保護課によると、1~8月のクマの目撃や痕跡情報は132件と平年並みだったが、9月に入り急増。1カ月間で114件と、前年同月の12件の9.5倍に上った。

 今年は餌となるブナやミズナラの実が不作で、同課は「クマが冬眠に入る11月末ごろまで出没が続く可能性が高い」として警戒を呼び掛けている。

 ■距離10メートル 突進に恐怖    背後の物音に気付き振り向いた時には既に、クマはわずか10メートルほどの距離に迫っていた。襲われた北電の男性社員(25)が搬送先の病院で取材に応じ、「想像以上にクマの動きが速く、力も強くて恐怖を感じた。命が助かってよかった」と話した。

 クマに出くわしたのは午後2時10分ごろ。後輩の男性社員(19)の後ろに付き、鉄塔に続く幅の細い山道を登っている最中だった。

 クマに気付いた時、最初は刺激しないようにゆっくり後ずさろうかと思ったが、クマは四つんばいで2人の方に突進してきた。「僕を標的に向かってくるように感じた。とにかく逃げるしかなかった」と言う。

 数メートル先の道路脇にあった舗装エリアに逃げ込んだが、すぐ追い付かれた。「足をかまれるくらいなら」と思い、とっさに左腕を出すと、前腕部をかみつかれた。谷側へさらに逃げると、クマは山の方向に走り去っていった。後輩社員は別の方角に逃げて無事だった。

 2人はクマよけの鈴を付け、撃退用スプレーを持っていたほか、会話したり歌を歌ったりするなど対策に努めていた。男性は「スプレーを取り出すような余裕はなかった」と話した。

 ■富山・魚津など目撃相次ぐ

 30日から1日にかけて富山市や魚津市、砺波市、上市町でもクマの目撃や痕跡の発見が計9件相次いだ。

 富山市宮保では1日午前6時ごろ、住宅の車庫内でクマの成獣1頭を住民が見つけ、富山南署に通報した。市と猟友会が、近くの熊野神社境内でふんを発見、捕獲用わなを設置した。

 現場は熊野小学校から約300メートル。児童は全員がクマよけ鈴を携帯し、保護者や教諭に付き添われて集団登下校した。通学路をパトカーが巡回した。

 同市小黒(大沢野)の住宅の庭では、クマとみられる動物のふんと柿の木の実が散乱しているのが見つかった。同市八尾町尾久の山間地でカキの木に登った痕跡、同市山田中村の山間地では30日にふんが確認された。

 魚津市の中山間地では1日、クマの目撃情報3件が相次いだ。それぞれ別のクマとみられる。午前10時ごろに同市室田の旧ゴルフ場近くで成獣1頭、同10時45分ごろに小川寺のブドウ畑近くで幼獣1頭、午後5時ごろに山女の公民館近くで成獣1頭と幼獣2頭が目撃された。

 砺波市正権寺の住宅の庭ではカキの木に登った痕跡とふん、上市町広野の県薬用植物指導センター敷地内の畑で足跡とふんが見つかった。

  

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