ねるとん紅鯨団「TALK SHOW」ラテン調にリアレンジされたのはなぜ? 1987年 10月3日 フジテレビ系バラエティ番組「ねるとん紅鯨団」の放送が開始された日

「オーケー!おめーらの気持ちはよーくわかった!」と絶叫する大学生――。

そう、僕が高校生くらいまでの文化祭といえば、必ずどこかのクラスが『フィーリングカップル5 vs 5』をやっていた。ところが大学の学園祭に行きはじめると、その面影はどこにも見当たらなくなり、集団お見合い系のブースは必ずといっていいほど “ねるとんパーティー” に様変わりしていた。

80年代後半… まさにこの『ねるとん紅鯨団』から、女性が男性を見定めて選ぶ時代へと変わったのだ。

今回は、80年代を語るには絶対外すことのできないバラエティ番組『ねるとん紅鯨団』を振り返り、なぜ主題歌の「TALK SHOW」は、番組後期の1992年からラテンのリズムアレンジに切り替わったのかを深読みしたい。

『ねるとん紅鯨団』は、1987年10月3日より毎週土曜日23時からの30分番組としてスタートしたフジテレビ系列のバラエティ番組である。

番組当初は『上海紅鯨団が行く』という前番組の内容を引き継ぎ毎回企画が変わっていた。その中で集団お見合い企画が好評だったため、途中からこの新しいお見合い形式の企画1本に絞られる。

さて、番組は「♪ 男なら立ってゆけ 女はただねて待て」というオープニング。演奏は鉄腕ミラクルベイビーズ、曲は「TALK SHOW」だ。もはやこの曲を聴いただけで『ねるとん紅鯨団』の記憶が一瞬にして蘇ってしまうという陽気な曲。

作詞・作曲は Wink の「寂しい熱帯魚」などアイドル中心に数々の楽曲を手掛けた尾関雅也、編曲は Zoo の「Choo Choo Train」などを手掛けた岩崎文紀である。

ただ、番組が人気だったので曲は皆んな知っているけれど、いざ、鉄腕ミラクルベイビーズ… って何? となってしまうことは否めない。僕もいままで意識したことはなかった。

鉄腕ミラクルベイビーズ… 元々は女性4人組のグループ(メジャーデビュー時は3人)で、日本楽器製造(ヤマハ)東京支店主催の『EAST WEST』で、レディース部門決勝進出(1986年)、同じくヤマハ音楽振興会主催の『ヤマハポピュラーソングコンテスト』通称 “ポプコン” においてもブロック大会で優勝を果たしたという、地元長野では有名なグループだった。

この頃は女性バンドブーム(SHOW-YA、プリンセス・プリンセスなど)もあって音楽関係者の目に留まったのだろう。残念ながらヒットはこの1曲だけですぐに解散してしまったけれど、ボーカルの倫子は同時期に活躍した地元のメンバーらと共に現在も音楽活動を続けていて、2018年度は期間限定で鉄腕ミラクルベイビーズを復活させた。そう、ただの一発屋ではなかったのだ。

さて、話は『ねるとん紅鯨団』である。番組はだいたいこんな調子だった――。

ゲストを招いたスタジオトークから VTR 映像になり参加者紹介。まずは男性陣をイジりながら紹介をして(現在も使われる “彼女イナイ歴〇年” はこの番組から)、そのあと石橋回ではお決まりの「タカさ~んチェーック!」が入り女性陣の紹介に移る。

女性陣を紹介するときに木梨回では「ほら、貴明がスタジオで見てるよ」と女性に囁き、その女性がカメラ目線で「タカさん、見てますか~」と恥ずかしそうに手を振ったりする演出があった。ちなみに現地の司会が石橋回と木梨回で演出が多少違っている。

そしてご対面。

アピールタイムで男性陣は特技などを披露する。その後男性陣、女性陣の第一印象をそれぞれ聞いて、その人気ぶりをスタジオで面白おかしく解説。そして VTR はフリータイムへと移ってゆく。

フリータイムでは、グループで談笑しながらも隙あれば目当ての女性と2人きりになるため、勇気をだして部屋から外へと誘い出す男性同士の駆け引きが注目された。

その男女2人きりになった状態は “ツーショット” と呼ばれ、この言葉は1990年代、社会問題にまで発展した “ツーショットダイヤル(ダイヤルQ2)” の語源としても社会に広く認知されることになる。

さて、次々と女性がツーショットに持ち込まれていくなか孤立した参加者(主に男性)は、離れた場所でモニタリングしている石橋(木梨)に呼ばれアドバイスを受ける場面がよくあった(半分は茶化されていた)。

そうしてスタジオトークに戻ると、何組カップルができるかどうかをゲストが予想するコーナーになる。おおよそここまでが「Side-A」だ。

この VTR 前半のフリータイム攻防戦までを「Side-A」、VTR 後半の告白タイムからを「Side- B」としたネーミングが、いま思うと何ともオシャレである。

深読みすると、これがレコードなら「裏返す」行為であり、カセットテープなら「反転」と読み取れるからだ。つまり「誰と誰がくっつく?」と予想したゲストや視聴者に対し、あっと驚くどんでん返しがあるよ… と匂わすネーミングなのである。

もちろん告白タイムでは人気の女性に対し、男性が告白する寸前に「ちょっと待ったー」という男性が現れ、ひとりの女性の前に複数の手が差し伸べられる展開を視聴者は待ち望んでいた。制作者側としては “してやったり” だろう。

この番組のルーツは『パンチDEデート』と『フィーリングカップル5 vs 5』である。それをゼネラルディレクターの伊藤輝夫(テリー伊藤)が “いいとこどり” して演出をしたハイブリッド版が『ねるとん紅鯨団』だ。

ここに司会として抜擢されたとんねるずが見事にハマった。 若者から歳の近い “兄貴的存在” の二人は「タカさん」「ノリさん」と親しまれ、毒舌や暴言、いまなら問題になりそうなハラスメント的な行動もひっくるめて愛された。「学生ノリで芸がない」と当時の演芸評論家からは揶揄されていたけれど、頭の回転の速さやキレ、押し切るチカラなど、天才木梨の自由気ままさと、緻密な演出を計算する石橋は、素人から巧みに笑いを引き出した。

この流れ、何もかもポジティブに、そして陽気に解決してしまう彼ら二人のノリとはラテン文化そのものだと考えられないだろうか。これこそが「なぜラテンのリズムアレンジに変更されたのか?」の発端であり、以下が僕の導き出した深読み解答である。

番組当初はユーロビート全盛のディスコブーム。楽曲も流行りを意識したエレクトリックアレンジで、ボーカルのエフェクトも少々きつめに掛かっている。90年代に入り、番組は集団お見合いという堅苦しさをポジティブな笑いに変えるという型が確立された。

その頃ディスコはクラブへと変わり、若者は狂ったようにハウスで踊っていたけれど、お互いを知るためにはビートが早すぎる。 ならば流行の先端であるサンプリングを取り入れつつビートを緩くしてサルサで表現したらどうか? …になったのだと思う。

えっ? なんでサルサが採用されたかだって? それは、サルサが陽気なラテン音楽で、とんねるずのキャラクターに合っていると判断されたから。そしてもうひとつ、サルサの醍醐味であるモントゥーノ(※注)つまりコール&レスポンスが、男性と女性の掛け合いという集団お見合い番組そのものを表現することに繋がるからだ。

どうだろう。また深読みが過ぎたようだ(笑)。

※注: モントゥーノ:サルサの楽曲中、前半の歌が終わったあとに挿入されるコーラスとボーカルの掛け合い(コール&レスポンス)セクションのこと。

カタリベ: ミチュルル©︎

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