病院でそば打ち20年余り 富山の元そば店主・菅原さん

そば粉をひく石臼の横に立つ菅原さん

 富山市天正寺の菅原時夫さん(80)は20年余りにわたり、そば打ち実演のボランティアを続けている。県立中央病院から毎年依頼を受け、緩和ケア病棟で思いを込めた一杯を振る舞う。患者やその家族と触れ合う機会になっており、「患者さんの『おいしいね』という言葉が忘れられない。元気なうちは続けていきたい」と話している。 (報道センター・石川雅浩)

 電気工事店を営んでいた菅原さんは50代半ばにそばに関心を持ち、飲食店を巡ったり、本を読んだりして勉強を始めた。趣味でそば打ちを習い始めた頃、家族が県立中央病院に勤務していた縁で、緩和ケア病棟でそば打ち体験会を開いてほしいと依頼された。軽い気持ちで講師を引き受け、そばを提供すると、当時の婦長から「何も食べなかった患者さんが、あなたのそばを一口食べてくれた。ありがとう」と感謝された。

 「少しは役に立ったのかな」と心を動かされた。一念発起してそば職人を目指し、全国から生徒が集まる創源流そば(群馬)で修業。60歳で自宅横にそば屋「ひこいち」を開いた。石臼びきで作ったそば粉を使った十割そばが人気を集めたが、体力的に続かず、約3年でのれんを下ろした。

 閉店後も年1回の同病院でのボランティアは続けている。緩和ケア病棟の患者やその家族らにそば打ちを体験してもらい、手作りの一杯を仕上げる。母親と共にそば生地に触れる兄弟や、妻の口にスプーン一杯のそばをそっと運ぶ男性らの姿を見るたびに、胸に込み上げるものがある。「命の尊さを感じて言葉を失うが、そばが家族の思い出の一つとなっていることに心打たれる」としみじみ語る。

 今年の同病院でのボランティアは11月の予定。菅原さんは「健康の大切さを教えてもらえる場。体が動く限り、病院でのそば打ちを続けたい」と話した。

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