長崎県議会を振り返って 石木ダム 中身濃い議論を

 長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業は、今定例県議会中に大きな節目を迎えた。土地収用法に基づき県と同市が反対13世帯の宅地を含む全未買収地約12万平方メートルの所有権を取得するなどした一方、県は完成目標を3年延期する方針を示した。だが、こうした目まぐるしい動きとは裏腹に県議会での議論が深まったとは言い難い。
 同事業を巡っては、9月14日、土地の強制収用に反対する県内外の国会議員、地方議員73人が議員連盟を設立。前後して、長崎市などで住民や支援者らによる集会などが繰り広げられた。家屋など物件を含まない土地の明け渡し期限を迎えた19日には、住民と中村法道知事との約5年ぶりの面会が実現。住民側が「古里を奪わないで」と涙ながらに直訴した。20日午前0時、県と佐世保市は建設に必要な全用地の権利を取得。一方で、反対派による抗議行動で工事が遅れているとして、県は30日、県公共事業評価監視委員会に完成目標を3年遅れの2025年度に延期する方針を諮問し、委員会は承認した。
 こうした中で開かれた県議会。土木部の業務を所管する環境生活委員会ではやりとりがあったものの、一般質問で石木ダムを取り上げたのは12人中2人。09年に県が国に事業認定を申請する際は超党派の推進派県議33人による意見書の提出があったが、今回はそうした動きもなかった。
 県側も、局面の大きさとは対照的に、いつも通りの答弁に終始した印象だ。環境生活委で県側は今後について「分かりやすい広報に努める」「一人一人に寄り添った話し合いをしたい」と説明。中村知事も本会議で「適切に対処したい」と述べたが、具体策は示さなかった。
 1975年の国の事業採択から40年以上が経過した石木ダムは長い経過があり、既に議論が尽くされたとの声もある。利水・治水の効果は再検証を経て現在の計画に至り、県が法に基づいて事業を進めているのも事実。だが、これまでと明らかに違うのは、家屋の撤去や住民の排除といった行政代執行が現実味を帯びる段階にまで来たということだ。大規模な行政代執行という前代未聞の選択肢に対し、県がどう判断するべきかという議論はまだまだ足りない。これは推進、反対の立場を超えて考えるべき課題だろう。
 多額の県費を投入する同事業は、反対住民、受益者である佐世保市や川棚町にとどまらず、一般県民にも関わる問題だ。推進、反対の双方がいずれも円満な着地点を模索しているならば、中村知事が言う「(行政代執行を含む)あらゆる選択肢」を明確にし、県議会は冷静に吟味するべきではないか。オープンな場で公平に議論し県民を巻き込む上で、県議会が果たす役割は極めて大きい。県の判断が汚点だったと後世、非難されないためにも中身の濃い議論を求めたい。

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