SK-Ⅱ、国内店舗を半減する狙い

SK-Ⅱが国内店舗の再編に動き出した。同ブランドを展開するP&Gプレステージ合同会社は9月初旬、同社と販売店が結ぶパートナーズ契約に基づき、取引を終了し、解約の手続きをとるという内容の「お取り引き終了に関する重要なお知らせ」を流通各社に送った。そこには「「弊社は卓越した製品力とブランドエクイティー構築を加速しSK-Ⅱをお求め下さるお客様が常に最適なショッピング体験を確実に得られるようにする為の成長戦略を更に推進する事を決定致しました」と書かれおり、契約期間は最長2021年9月末。商品の受注は21年9月29日でストップし、10月1日以降は出荷が止まる。この解約が完了すると、日本国内のSK-Ⅱの店頭は、半分程度になる見込みだ。

SK-Ⅱの目的は、生活者の変化を考慮した買い物体験の提案にある。インターネットやスマートフォンの普及に伴い、生活者が得る情報は増え、店頭での体験価値はシビアに評価されるようになった。そこで近年、SK-Ⅱは、AIやITを駆使したポップアップ店舗を東京、上海、ニューヨークなど世界各地で実施、時代に適した店頭を模索してきた。19年9月2日に発表した新戦略では、ブランド、人、店舗への投資強化を三本柱に置いたが、この流れに、配荷店の最適化がある。SK-Ⅱらしい戦略が実現できる店頭に集中するということだ。

取引が続く店舗の条件は公開されていないが、若者が集まる高トラフィックの立地であること、そしてプレステージブランドに相応しいカウンターが設置できるスペースを確保できることを重視している。基準の一つに月商1000万円以上もあるようだが、それを下回っていても、若者と出会える立地、その可能性を秘めている立地には投資を継続する。

もちろん、通知を受けた流通側は困惑した。対象は全チャネルである。百貨店では岐阜高島屋、山陽百貨店(姫路)などの地方店のカウンターが閉鎖。最大の取引先「イオン」とも幕張本社で商談を進める。しかし、SK-Ⅱの決断に強く反発しているのは化粧品専門店業界。9月13日に初めて行った全国化粧品小売協同組合との協議は継続される見込みだが、SK-Ⅱが方針を変えることはないだろう。

というのは、少子高齢化が進む日本市場において、プレステージブランドの地位を守るには、20代の若年層に出会える高トラフィックの立地に絞り込むのは一つの手段である。そのような立地は、訪日客の目にも止まるから、そこに投資を集中することで、グローバル市場での存在感も高めることができる。それにSK-Ⅱの需要は世界中で高まっている。唯一の生産拠点である滋賀工場の拡張は終わったとはいえ、旺盛な海外需要を踏まえれば、フル稼働後も供給力アップに取り組むことに変わりはない。グローバルで物事を考えるSK-Ⅱにとって、流通の再構築は避けられない道だった。

実際、SK-Ⅱの戦略は、日本だけでなく、世界各国で同時に行われている。日本で送付された書面にブランド全体の責任者であるSK-ⅡワールドワイドCEOのサンディープ・セス氏のサインがあることが、それを示している。例えば、アジア各国でも新戦略は動き始めている。中国は配荷店の整理は未着手だが、日本と同じ方針を流通各社に伝達済み。台湾は昨年から少しずつ動き出しており、今後、本格化する。そして19年8月に1店舗オープンした香港は、店頭を絞り込む話は出ていないが、直営店を最優先にする考えは流通各社に伝えている。

国内大手メーカー関係者は「やり方は大胆で真似できないが、ここまで絞れば店頭への投資が高まる。SK-Ⅱの店頭活動がどう変わるのかは注意しなければいけないが、楽しみでもある」と指摘。SK-Ⅱが投じた一石がグローバル化を急ぐ日本企業を刺激するのは間違いない。

© 国際商業出版株式会社