日立とソニーが相次ぎESG説明会、共通の重点課題はD&I

日立は24日、同社初のESG説明会を開催した。同社は環境(E)領域で2016年に策定した「日立環境イノベーション2050」の進捗を報告し、気候変動問題への取り組み強化を強くアピールした。一方、ソニーは26日、昨年に続き2度目のESG説明会を開催。企業統治(G)領域で、役員報酬に社員とのエンゲージメントや品質・環境に関する事項を考慮する手法を説明した。両社に共通するのは社会(S)領域の重点テーマを人材・人財とし、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)、女性躍進の推進のための具体的な施策や目標値を発表したことだ。(サステナブル・ブランド ジャパン編集局=沖本啓一)

日立:環境領域での社会イノベーション事業に注力

日立の内藤理常務

日立にとって初のESG説明会の冒頭で、東原敏昭CEOは「予測が困難なVUCAの時代に地球の持続可能性が問われている」と改めてESGへの取り組みの必要性を強調した。

環境領域では内藤理常務が登壇。2021年までの中期経営計画で、事業全体のCO2排出量を20%以上削減、グループ内で水利用効率26%以上の改善と資源利用効率12%以上の改善を目標に掲げる(すべて2010年比)。シンガポール工場のイオン交換水製造装置の最適化により水使用量を削減し、52%の水利用効率を改善した例や、鉄スクラップを循環利用することで15%の資源利用効率を改善した実践例を紹介し、取り組みの進捗をアピールした。

また、脱炭素ビジネスを拡大し、グローバルにおける社会イノベーション事業を経営戦略の中核として強く推進することを明言。モビリティ分野では英国鉄道で稼働する鉄道車両「AZUMA」での、軽量化したアルミ車両による省エネ運行の実現といった事例や、まちづくり分野での電動化、自動運転技術の推進の取り組みによるCO2削減、交通死亡事故撲滅への寄与などの多数の実践事例を紹介した。

社会領域では人財戦略を打ち出した。日立は2020年までに、役員層における女性と外国人の比率をそれぞれ10%にすることを目指す。今年4月時点で外国人役員は7人(8.8%)、女性役員は4人(5%)を達成している。従業員においても「日本人・男性・新卒」というモデルを変え、キャリアやバックグラウンド、ライフプランが異なる人財を今後も増やす。「日立におけるダイバーシティ&インクルージョンとは、イノベーションの源泉であり、企業の競争力を高めるもの」と位置づけを明確にした。

ソニー:「より良いガバナンスの追求に終わりはない」

ソニーの神戸司郎常務

ソニーは2018年、「持続的な社会価値と高収益の創出を目指す」という経営方針を発表している。経営方針を実現するためには「長期視点での社会価値創出」が必須であり、それを支えるためにコーポレート・ガバナンスの継続的な強化が必要であると同社の神戸司郎常務は強調した。

同氏はソニーのガバナンスモデルの特徴として取締役会13人のうち、11人が社外/非業務執行取締役であることなどを説明。これにより取締役会の独立性と強化された監督機能を持つことができる。

「現在のガバナンスの仕組みはストラクチャとしてはひとつの到達点を示すと考えているが、より良いガバナンスの追求に終わりはなく、継続してガバナンス体制の強化・改善に取り組んでいる」(神戸司郎常務)

取締役会の長期視点を促す仕組みとして、同社は役員報酬制度にも工夫を施し、上位役員ほど株価連動報酬の比率を高く設定しているという。業績連動報酬の評価指標としても、グループ連結での業績を組み込むほか、社員の意識調査(エンゲージメントスコア)や品質・環境に関する事項が考慮される仕組みを採用している。

社会領域での重点項目には日立と同様、人材への取り組みを挙げた。ダイバーシティ&インクルージョンを重要な課題とし、「がん予防・治療」「妊娠・育児」「介護」の3点で就業との両立支援を推進することを打ち出した。既存のサポート施策に加え、がんの精密検査時に利用可能な休暇の新設や柔軟な勤務制度の拡充など、新たな施策も展開する。妊娠・育児については、妊娠前の不妊治療を目的とした休暇の新設や費用補助制度など、不妊治療へのサポートも実施するほか、男性社員の育児休暇100%取得を目指し、セミナーなどを開催する。

日立、ソニーの両社とも環境、社会、企業統治についてそれぞれ積極的な取り組みを進め、同時に情報を開示している。取材に対し「社会の中でサステナビリティへの関心が特に高まり、その声に応え発信するためには説明会を開催することが重要だ」とソニーの環境部環境推進課統括課長の志賀啓子課長は話した。

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