【おんなの目】 時

 時間は見えません。時計の針をずっと見ていても、針が動いた時には、もう時は過ぎ去っています。そんな過ぎ去った時を抱えているものがあります。

 苦瓜   魚本藤子

始まりは点のような小ささだった/黄色の花の根元が少し/ぎこちなくふくらんでいる/立ち止まって目を凝らして見なければ/よくわからない/あっという間だった/まだ意味というものを持たず/風にゆれている/その点のような刻が積み重なって/形がつくられていく/人が誰も気づかなくても/ひとときもとどまることなく/そこに刻が降り積もる

 時は休みなく降り積もり、そして時はこのように姿を現すのです。
ある日/――あれは何? と/指し示されるくらいの形になる/あの時何気なく通り過ぎてしまった刻が/存在を主張しはじめる/――ここにいます/という返事になって揺れている(略)

 時は降り積もり続けます。

 それはいつの間にか/苦瓜という確かな名前を持ち/びくともしない刻になって揺れている/もう忘れようとしても忘れることができない

 時は苦瓜というびくともしないものになったのです。苦瓜は時を抱えているのです。割ってみませんか。「きりりと苦いずっと昔に出会ったあの一瞬」にめぐり合えますよ。

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