製造業の調達に新風 28歳のベンチャー社長

加藤勇志郎さん

◆「人生懸け課題と向き合う」 加藤勇志郎さん 28歳

 「キャディの支えがなかったら、今ごろつぶれていたよ」

 町工場の社長に言われた言葉が、何よりうれしい。「やる気のある経営者に出会い、ともに成長する。私たちの事業の魅力はそこにある」と力強く語る。

 ベンチャー企業「キャディ」(東京都台東区)を創業してわずか2年。金属加工業界の“革命児”として著しい成長を続ける。

 発注者が図面データを入力し、素材や数量などを指定すると、製造工程や原価計算を瞬時に計算するアルゴリズムを開発。従来は2週間近くかかった見積もりをわずか7秒で出す受発注のプラットフォーム「CADDi」を作り上げ、サービスを提供する。

 これまで大手製造メーカーなど4千社が顧客としてサービスを利用。キャディ自体は工場を持たないが、「パートナー」と呼ぶ板金加工などの町工場約150社と提携し、高品質な加工品を低コスト、短期で製造、顧客に納品している。

 前職は外資系コンサルティング会社のマネジャー。大型輸送機器や建設機械、医療機器などのメーカーに対して調達分野の改革などをサポートした。

 「学生時代から起業は考えていました。コンサル会社は各業界の課題が見える。どうせ人生を懸けるのなら、大きな課題と向き合いたいと思って」。高い志をさらりと話す。実際、コンサル会社での経験が事業の構想につながった。

◆非効率な現状 高度技術で解決

 製造業の国内総生産額は180兆円。調達分野だけでも120兆円にも及ぶ。しかし、設計や製造の分野では人工知能(AI)やロボット化などのイノベーションが起きているのに、資材調達に関しては発注者中心の複雑な下請け構造が形成され、アンバランスで非効率な現状が長く続いていたことに着目した。

 「非常に課題が大きく、根深い。解決する価値あることだと思ったんです」

 キャディのサービスを使うことで、発注者は複数の町工場に見積もりを依頼する手間が省ける。町工場も相見積もりの労力や失注がなくなり、限られた取引先に依存するリスクも減る。

 100年近く変化のなかった調達の分野に高度な技術で新風を吹き込んだことで、各方面から高く評価された。経済産業省の支援対象企業に選ばれたほか、今年7月には極めて高い成長性が見込めるビジネスプランを表彰する「かわさき起業家大賞」も受賞した。

 川崎には同社「パートナー」の町工場も多い。市産業振興財団によると、同社のサービス利用で安定した受注ができ、設備投資や新規社員の採用につながったケースもあるという。より多くの町工場に同社のサービスを利用してもらおうと、財団は先ごろ同社と協定を締結した。

 同社は現在、板金加工だけではなく、金属や樹脂の切削加工品にも対象を広げている。来年秋には売上高で国内ナンバーワン、3年後にはアジアトップを目標に据える。

 「パートナーの会社とともに、製造業全体をよくしていきたい」。強い意志が一つ一つの言葉に宿る。

 ▼かとう・ゆうしろう キャディ株式会社社長。マッキンゼー・アンド・カンパニーを退社後、アップル米国本社のシニアエンジニアだった小橋昭文最高技術責任者と2017年11月にキャディを創業。28歳。

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