恫喝と裁判官批判も「該当せず」 警察取り調べチェック「監督対象行為」の限界、専門家指摘  

滋賀県警本部

 自白の強要など警察の不適切な捜査をチェックする「取り調べ監督制度」が、運用開始から10年が経過した。京都府警と滋賀県警ではこれまで、計24件が不適切な「監督対象行為」に該当した。だが、弁護士などへの取材では該当以外にも強引な捜査が浮上しており、専門家は「内部での監督には限界があり、全事件での録音・録画が必要」と指摘する。

 制度では、各警察署の取り調べ監督官が、すべての取調室に設けられたマジックミラー越しに取り調べを監視したり、弁護士や被疑者親族らからの申告などを受けて調査する。任意捜査を含む全取り調べが対象で、便宜供与や暴力などが発覚すれば「監督対象行為」となり、捜査を一時中断する。
 制度が2009年に開始されて以降、監督対象行為は19年7月末までに、京都府警では15件、滋賀県警で9件あった。「便宜供与」が最多の9件で、「間接的な有形力の行使」が5件、許可なく長時間や深夜の取り調べをする「みなし監督行為」が4件、他に身体接触や尊厳侵害言動、不安・困惑させる行為があった。府警、県警とも警察官の懲戒処分はなかった。
 県警企画教養課は「透視鏡からいつ確認しているか分からない状況で、捜査員は緊張感を持っており、不適正な取り調べが防げている」とする。県警幹部は「肩をたたいたり、正座などの同じ姿勢を取らせることなども禁止された」などとし、「聴取を甘くすることはないが、捜査員の意識は間違いなく変わった」と導入後の変化を話す。
 しかし、不適切な取り調べのすべてが、監督対象行為と認められているのかは疑問が残る。
 18年に大津地裁であった殺人未遂事件(17年4月発生)の公判では、刑事が被告に「こうやったんやろ」などと大声で話す取り調べの映像が流れた。裁判官は「どう喝に準ずるほどの言葉で、警察官が欲する答え以外の供述をするのが著しく困難だった」と批判。検察側が証拠提出した警察官調書を撤回した。
 県警は、公判を受けてこの取り調べが監督対象行為かどうかを調査したが、「当たらないと判断した」としている。
 この事件で被告の弁護を担当した北村美菜弁護士(滋賀弁護士会)は、県警の取り調べが不安・困惑させる行為に当たるとし、「公判でひどい取り調べだと認められたのに、警察は取り調べの適正化の指針を守るという意識を徹底していないのではないか。弁護人の立会権が制度として導入されるべきだ」と訴える。
 今年4月には、公職選挙法違反容疑で6時間にわたって県警に任意の事情聴取を受けていた男性が、体調不良で倒れて救急搬送されたが、これも「該当しなかった」(県警)という。
 制度に詳しい立命館大の渕野貴生教授(刑事訴訟法)は「監督対象行為が示されたことで、警察官の倫理観に働き掛け、一定、不適切な取り調べの抑制機能はあるかもしれない。だが、自白を追求する組織的な方針がある場合、内部的な監督で効果があるかは大きな疑問」と指摘。現状では裁判員裁判対象事件などに適用されている録音・録画(可視化)と組み合わせることが重要だとし、「第三者によるチェックが必要で、録音・録画の対象を全事件、全過程に拡大するべきだ」とする。

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