どん底で鳴っていたルースターズのリフレイン、また1から出直しさ 1986年 11月1日 ルースターズのアルバム「KAMINARI」がリリースされた日

大学時代は実に多種のアルバイトをした。二度とやらねえ!と思ったものもあるし、こういうオイシイ日払いバイト、またないかねえ… と思ったものもある。まあ、オイシイ話はそんなに転がってはいないのだが。

夏休みも終わって、いいかげん金欠だし、そろそろバイトを探さないと… と思っていた矢先、学生課の掲示板に貼り出されていたバイト募集の貼り紙。「簡単な電話応対、時給700円」―― 当時の相場としては平均的だが、大学から歩いて通えるのが有難かった。これはイイかもと思い、駅から歩いて一分ほどのビルに面接へ。その某信販会社で週4日のバイトが決まった。

バイト初日、人事の方に言われたとおり、シャツとネクタイ姿で出勤。三課と呼ばれる部署には社員の方二人のデスクと並び、バイト6名分の机が並んでいた。その末席に座り、「とりあえず慣れるまで書類の仕事をしながら、先輩たちの仕事を見ていて」とのことだったので、しばし観察を。

同じ大学生のバイトの方々の口調から察するに、この部署の仕事はカードの支払いの滞っているお客様に督促の電話をかけることのようだ。ときどき、口調がキツくなる方もいたので、口論とまではいかないまでも、それに近い状態になっているのかもしれない。というか、この仕事、口下手でケンカも下手な自分に務まるのだろうか!?

そうこうしているうちに、バイトのひとりから電話を継いだ温厚そうな社員の方が受話器に向かって「あんたが借りたんだろっ!」とカミナリ級の怒声を発した。自分はかなりビックリしたのだが、他のバイトの方々は顔色を変えず、むしろこれに刺激されように電話口の声にドライブがかかり出し、声のボリュームが高めになっている。いや、すみません、自分には無理…… “簡単な電話応対” が “借金の取り立て”とイコールだったとは思わなかった。

休憩時間に大江千里似の学生バイトの方に、「いつもこうなんですか?」と尋ねたら「うん、そのうち慣れるよ」と爽やかに言われた。聞けば、三課で扱うのは三か月返済が滞っている方への対応で、それを過ぎると案件は別部署に移るという。その別部署を想像しただけで、怖くなった。

翌日もカミナリが鳴り響く仕事場へ。電話の向こうの相手も激高しているのは容易に想像がつくので、胃がキリキリと痛くなってくる。わかったのは、この仕事の適性は、どうも自分にはないようだ。十人十色。向き不向きはある。そんなこんなで、一週間で辞めた。

定期バイトの最短記録を更新してしまい、“ダメだなあ、俺…” と落ち込んでいた、この時期の思い出とセットになっているのが、ルースターズのアルバム『KAMINARI』。

金欠のさなか、10パーセント引で買える大学の生協で購入したが、とにかくよく聞いた。「♪ また一から出直しさ」というリフレインが響く、一曲目の「OH! MY GOD」は自分の当時の心境とシンクロ。

何より、ちょっとポップサイケに走った感のある前作に比べてロッキンだった。ギターがギャンギャンいっているロックンロールレコード。博多の重鎮・柴山俊之作詞、花田裕之作曲のナンバーはどれも最高で、次のバイトがなかなか決まらずモヤモヤ―っとしている自分には格好の BGM だった。

思うに、ロックンロールの効用があるとすれば、こういうどん底の状態でも前を向かせてくれることだと思う。そういえば、先日、柴山俊之率いるバンド Electric Mud のライブを観に行ったら、同アルバム収録の「CRIMINAL ROCK」をプレイしていた。客入りも良いとは言えなかったが、72歳になってなおロックを叩きつけるキク(=柴山)さんを見て、久々に当時のそんな気持ちが甦ってきた。

さて、告知。10月19日(土)、Re:minder 主催のクラブイベント『博多ビートパレード』の第2回が、新宿スポットライトにて開催します。前回に続いて DJ をやらせていただきます。『KAMINARI』も、もちろん持っていく予定。そこにオイシイ話は転がってないかもしれないけれど、アテネ五輪の金メダリスト、野口みずきさんと触れ合えた前回のような、楽しい話ならゴロゴロ転がっているかもしれないので、ぜひぜひお越しください。

カタリベ: ソウママナブ

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