守られることを

 空は澄んでいた。慣れない手つきでリンゴ狩りをやったのは、3年前の今ごろだった。赤く染まる前の、いくらか青さを残した果実が、気が付けば両手に二つも、三つも…▲その時から、リンゴ狩りをした福岡県朝倉市の名を聞けば「実り豊かな」という形容を思い浮かべてきた。果物の産地として知られるその地はおととし7月、豪雨にやられ、町は茶褐色に染まった▲災害の何カ月か後にまた訪れたときも傷痕は残り、恵みの地にがれきが積まれたさまは、天の非情を思わせた。いま調べてみると、前と同じか、やや小規模にして続いているフルーツ園が多いことに胸をなで下ろす▲実りと恵みの季節はまた、時に大災害も伴うのだと思い起こす。大型で非常に強い台風19号がきょう、東海、関東に上陸する見通しで、記録的な暴風や大雨の恐れがある▲先月の台風15号では、とりわけ千葉県で家屋が倒れ、壊れ、大停電までも起こったが、収穫直前のコメ、梨といった農作物にも大変な被害があった。「そこへ、また」ではひどすぎる▲「一粒(いちりゅう)百行」という言葉がある。一粒のコメは百の作業を経て作られる、という意味らしい。一粒一粒、野菜や果実の一つ一つに限るまい。“百行”を注ぎ、地道に営まれてきた一人一人の生活が、むごい風雨からどうか守られることを。(徹)

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