黒木あるじ 「掃除屋 プロレス始末伝」- 能ある老レスラー、牙とともに隠した想い込めプロレス愛を叫ぶ

数々の実話怪談執筆で定評ある黒木あるじが初めて書いた小説の題材はプロレスだった! 畑違いなように見えるが、荒唐無稽と一般の世界でいわれるかもしれないことを、真剣に、かつ受け手や業界のことを深く考える主人公の姿が筆者のたたずまいにも通じて感じられる。ロートルで連敗記録更新中、笑われ役のアラフィフレスラーは色々な立場の人から依頼されリングの上で対戦相手を「始末」する稼業。ただし観客にはその「始末」を悟らせずに娯楽として試合を進めつつ遂行する。依頼のサインは造花を受け取ること(これが後に効いてくる)。植物状態の元レスラー、身辺を嗅ぎ回る記者らワケありの人々の群像劇が繰り広げられる。
大きなストーリーがありつつ、1話ごとに謎の提示と解決があり読みやすい。プロレスが分からずとも楽しめ、中島らもの『お父さんのバックドロップ』のようだ。この道が好きなら人物や出来事のモデルを考えるのも楽しい。(澤水月)

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