「トライアンフ・ストリートツイン」で大型バイクにもう一度‟挑戦”

大型バイクにもう一度乗りたい! そんな希望を、英国の名門、トライアンフの「ストリートツイン」が肩肘張らずに叶えてくれそうです。


クラシカルさが醸し出すなんとも言えない安心感

風に爽やかな冷たさが漂う頃になると本当にバイクに乗りたくなるのは僕だけでしょうか? 昔、それなりに大型バイクに乗っていた人が「もう一度、バイクに乗ってみるか?」とリターンライダー宣言するのはよくあることです。でも心配になるのは“スキルの低下”です。

そこで「取りあえずは小さいバイクで」となるのですが、少しばかり2輪感覚に慣れてくると「ナナハン以上のビッグバイクでもいけそうだなぁ」という気持ちになります。実際に私がそうなのですが、やっかいなことに「昔、ナナハンライダーだったんだぜ」といった自負が多少なりとも目覚めてくるのです。

それに小さなバイクの気軽さ、手軽さも十分に魅力的であることを理解した上でも、一方でビッグバイクのゆとりある走り、ハイウエー走行による活動範囲の広がりはさらなる魅力と映るのです。こうなると重要なのは「なるべく気軽に乗りやすい愛機選び」を行いたいということになります。

若い頃からビッグバイクに跨がり、そのまま乗り継いできた生粋のライダーではないのですが、見栄だけは張りたい。ホンダもいいし、カワサキもいいし国産にも選択肢が山のようにあります。が、心のどこかで「どうせなら輸入車」なんて考えもあるんです。そんなときに試乗する機会を得たのが「トライアンフ・ストリートツイン」でした。

トライアンフといえば現存する最古のオートバイメーカーとして長い歴史を持つ英国のメーカーですから、もちろんブランド力は十分です。その中で代表的なモデルとして随一の人気を誇るのがクラシックカスタムバイクの「ストリートツイン」です。古くから作り続けられ、多くの人たちに愛されてきた“バーチカルツイン”と呼ばれる直立2気筒エンジンと伝統的なスタイル。この佇まいを見ただけでもリターンライダーは安心します。ボディはスリムでシートポジションが低そうで地面に足もピタリと着きそう。実際にストリートツインに跨がり、右足を地面、左足をステップに載せて信号待ち風にライディングを決めてみると、車重198kg、シート高760mmということもあって不安定な感じはほとんどありません。

無駄を削ぎ落としたシンプルでスリムな佇まいがクラシカルな雰囲気を、より高めてくれる。

思いの外、リーズナブルで大型バイク生活が

足がキッチリ着けるとなると俄然、やる気が増してきます。早速、クラッチを握り、エンジンスターターボタンを押すと大排気量2気筒エンジン特有の振動とエンジン音を伴ってエンジンが目覚めます。アクセルを1回煽ってみると、ドッドッドッドッっと生き物の心臓の鼓動のように、回転を軽やかに上昇させていきます。なんとも言えないエンジンの感覚や普遍性が今も多くの人々に愛され、まさにトライアンフの世界観の根幹をなしていると言っていいでしょう。この感覚は国産のカワサキW1やヤマハXS650など、ツインエンジンの魅力的なモデルを知っている世代にとっては、何とも懐かしい感じですが、このストリートツインは正真正銘の現代のバイク。

見た目こそクラシカルですがエンジンは大幅な進化を遂げて、最新のスペックとなっています。

おまけにビンテージ感を演出したデザインが与えられ「モダンクラシカル」と呼ばれるカテゴリーに入る1台ですから、ガチガチのライダー・ファッションでなくても許される感覚があります。峠を駆け抜けるスーパースポーツやツアラーとなると、着るものをレーサー風にするなどけっこうハードルも高い上に、少しばかり気恥ずかしさも正直あります。おまけにライディングのスキルもそこまで高くありませんから、普段着感覚のファッションで乗れるストリートツインが選択肢として浮上してくるわけです。

もちろんインナーにはプロテクター、専用のブーツやグローブは必須ですが、全体とすれば普段着ファッションで乗りこなすことができ、その意味では自由度が高いわけです。ネオクラシックといったブームも確かに支えとなっているのですが、肩肘張らずに乗れることは嬉しい要素となります。当然ですがトライアンフのラインナップにはカウルを備え、並列3気筒エンジンを積むスポーツバイクとか、大陸横断もこなせるほどのアドベンチャーモデルなど色々な選択も可能ですが、リターンライダーが“さりげなく、乗りやすい”をテーマに選ぶとなると、ストリートツインが最右翼に来るのです。おまけに価格だって105万600円(ジェットブラック)と驚くほどの高額車ではありません。

街乗りからハイウエーまで、気軽に流せます

早速、ギアを入れて走り出してみました。エンジンは水冷直列2気筒900ccで65馬力となっていますから、それほど強烈なパワーとは言えません。それでも速度を上げていくとわずかに不規則ですが、確実にシリンダーの中で爆発が起きていることを理解できる独特の鼓動感を伝えてくれる加速感はとても気持ちがいいのです。

最新テクノロジーによって操縦性、安全性、コントロール性がレベルアップしています。注目はクラス初採用となるライディングモードの設定をボタンにワンタッチするだけで切り替えできます。

なんともゆったりとしたライディングフィールを楽しみながら市街地から高速までスムーズに流れていきます。ステップを路面にすりながらコーナーを駆けぬけるようなバイクではありませんが、飛ばさずとも楽しめる乗りやすさは、リターンライダーにとって大きな魅力となるはずです。

しばらく走り込むとだんだん昔の感覚が戻ってくるのがわかりました。かといってこのバイクを自在に乗りこなすためには、当然のように少しばかり時間を要するかもしれませんが、体への馴染みは早いと思います。このゆったり感があればウイリーさせるような無茶をする気分にも、無謀な速度違反もしようなどとあまり思わなくなります。

一方でクラシカルバイクといえども最新のBrembo製フロントブレーキなどが装備されていてテクノロジー面でライダーのための乗りやすさ、扱いやすさ、安全性でも現代風の味付けによって仕上げられています。このストリートツイン、まさに近所の買い物からゆったりとしたツーリングまでフルにカバーしてくれる懐の深さがあります。

Brembo製フロントブレーキで優れた制動性能を確保しました。

スリムなボディとシートの低さが足着きの良さを実現しています。

エンジンには新設計のマグネシウムカムカバー、新設計の軽量クランクシャフト、軽量化したクラッチが採用され、パフォーマンスが格段に向上しています。

などと満足しながら走っているとき、たまたますれ違ったハーレー・ダビッドソン。ストリートツインの鼓動感とはまたひと味違ったVツインの圧倒的な鼓動感……。なんかそっちも気になっている浮気心を発見して、少しばかり慌てました。う~ん、リターンライダーの悩みはまだまだ続きます。

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