マツダ e-TPV(電気自動車プロト)海外試乗│プロトタイプから見るマツダが目指す電動化の世界とは!?

マツダの電気自動車プロトタイプ「e-TPV」

マツダは従来からの価値を究極的に突き詰める…だけではなかった!

ノルウェーのオスロで開催されたマツダの電気自動車プロトタイプであるe-TPVの試乗会で、衝撃的な事実が明らかになった。

現在のマツダは特に、独自の世界観を加速させた商品を提供している感がある。例えばスカイアクティブ・テクノロジーと呼ぶ技術群で、従来の内燃機関やシャシー技術を徹底的に追求・進化。ディーゼル・エンジンでは圧縮比の低いスカイアクティブDを生み出し、ガソリン・エンジンながら圧縮比の高いスカイアクティブGを送り出すなど内燃機関を改革。またシャシーではボディ構造に始まり、Gベクタリングコントロールといった制御技術で運動性能を進化させた。そして魂動デザインと呼ぶ独自の世界を表現した高品質なデザインで、世の中的にも高い評価を得てきている。

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そしてさらに今後は最近世に送り出したMAZDA3やCX-30に、内燃機関の究極系といわれるスカイアクティブXの搭載が控えている状況だ。そんな動きを見ていると、マツダのイメージはハイブリットや電気自動車が全盛の時代にあって、自動車の基本的な部分を究極的に磨き上げて、アナログ的な部分を現代に通用するものとして追求し、商品として成立させている感が強かった。

副社長の藤原清志氏の「ウチのシェアは世界のわずか2%に過ぎない。だからウチはその2%の方に納得してもらえる『走り』や『デザイン』を実現したクルマを提供していきたい」という言葉からも、マツダというブランドは従来からの自動車の価値を究極的に突き詰める…そんなイメージを筆者は持ったし、おそらくクルマ好きの皆さんの多くもそう考えていたはずだ。

しかしながら、それは違っていた。いや、正確にいうならば、マツダはそれだけを考えてきたわけではなかったことが今回、明らかになった。

新プラットフォームはMAZDA3やCX-30よりも先に「電気自動車プロトタイプ」が原点だった

マツダの電気自動車プロトタイプ「e-TPV」
マツダの電気自動車プロトタイプ「e-TPV」

今年はMAZDA3が、マツダの「新世代商品群の幕開け」として鳴り物入りでデビューを果たし、さらに第2弾として先日、コンパクトSUVのCX-30がデビューを果たした。これらはマツダの新世代の小型車群の基礎といえるスモールプラットフォームを用いたプロダクトだ。

そして我々はこのプラットフォームがMAZDA3から採用され、次いでCX-30に採用され、その次は…? と考えていたが、実はこのスモールプラットフォームの発端こそが、今回試乗した電気自動車プロトタイプだということを、今回の試乗会で知ったのだ。これはどういうことか?

実はマツダが、MAZDA3やCX-30で用いたスモールプラットフォームの検討を始めたのは2015年のこと。この時点に既に、新世代のスモールプラットフォームを電動化対応することに決めたのだという。そして実際の開発も、MAZDA3やCX-30より今回の電気自動車が先んじた。つまりこの電気自動車の開発からスモールプラットフォームが始まり、その後ほどなくしてMAZDA3やCX-30が開発され、そして登場自体はその2台が先になったという経緯だ。

では当初から電動化対応を考えていたことが何を意味するかといえば、今回の電気自動車プロトタイプで披露した構成こそが究極系というか最終系であり、つまりこの骨格は当初からあらゆるパワートレーン搭載を考えたものとして設計されていたということである。

確かにクルマの成り立ちを考えれば、電気自動車や電動化モデルなど電動化車両の方がバッテリーを搭載する分車両重量も重くなり、床板のほとんどをバッテリーとするために、構造的にも特殊で、衝突時の性能も含め求められる要件が厳しくなる。逆に最初に内燃機関車両を開発し、これを元にモーターやバッテリーやその他を搭載するレイアウトを考えていく作り方だと電動車両の方が全てを後付けの構造としたものになりかねない。

また電動化車両を最初に考えておけば、内燃機関車両ではバッテリーを外したスペースも有効活用できるなど諸々の融通が効く。そんな様々を想像していくと、なるほどこのプラットフォームがトーションビーム形式のリヤサスペンションを持つことにも納得がいく。バッテリー等を積載する空間を生み出すための最適解というわけだ。

マツダの電気自動車プロトタイプ「e-TPV」

満を持してマツダの代名詞「ロータリー・エンジン」が復活

マツダの電気自動車プロトタイプ「e-TPV」

こうして電動化車両を最初に考えて、その構造を内燃機関モデルへ適応させる概念で車作りを考えてきたわけだ。

しかもマツダは今回、電気自動車のプロトタイプを我々に試乗させたが、会場に置かれたプラットフォームは、試乗した電気自動車のプロトタイプではなく、その派生系である電動化モデルだった。

今回発表した電気自動車のプロトタイプではエンジンルーム、いやモータールームを覗き込むと向かって左半分にモーターが置かれ、右半分は巨大なステーでモーターとフレームを締結する。しかしながら展示車両ではこの巨大なステーがなくなり、代わりにもう1つのユニットが搭載されていた。

それがロータリー・エンジンである。そう、マツダはこのプラットフォームでロータリー・エンジンを宣言通り復活させたのだ。

車両のフロント部分には向かって左にモーター、そして中央にロータリー・エンジン、そしてロータリーの右側には発電機という並びのパワートレーンが搭載された。そしてロータリー・エンジンの排気量こそ固定しながらも、組み合わせる発電機や搭載バッテリーの大きさを変えて、レンジエクステンダー、プラグインハイブリッド、シリーズハイブリッドなどをフレキシブルに作れる構造とした。さらにいえばロータリー・エンジンは燃料にガソリンだけでなく、LPGや水素など、あらゆるものが使える用意を考えていた。そして販売する地域によって、パワートレーンや燃料を選んで柔軟に仕様を変えていけるという仕組みだ。

実はかなり先進的な思考でポートフォリオを描いていた

マツダの電気自動車プロトタイプ「e-TPV」

そしてこの事実を知って、本当に驚いた。なぜなら歴史を振り返っても2015年の段階でこれほどまで電動化対応したプラットフォームの開発に着手していた自動車メーカーはそれほど多くないはずだ。そう考えるとマツダはイメージこそアナログな感覚がどこかあるものの、実はかなり先進的な思考でポートフォリオを描いていたということになる。だから筆者は思わず、当日お話を伺ったマツダの開発担当役員である松本浩幸氏に「もっと早く教えてくださいよ」と言った。なぜなら今回の電気自動車プロトタイプおよびその派生系の電動対応車両を知ることで、我々が認識していたマツダのスモールプラットフォーム戦略はこれまでの認識と異なるものとなるからだ。

改めて戦略を整理すると、マツダは2015年から電動化に対応した新世代のプラットフォームを開発し始めた。そして当初から電動化車両を開発し、そこから派生させた内燃機関搭載モデルのMAZDA3やCX-30を先に世に送り出した。そしてこの電気自動車プロトタイプが今後、東京モーターショー2019で発表されて、スモールプラットフォーム群のさらなる広がりとするのだ。

電気自動車プロトタイプe-TPVは、モーターの魅力が全てというクルマではなかった!

マツダの電気自動車プロトタイプ「e-TPV」

そしてここまでの非常に長い前置きから、この電気自動車プロトタイプを試乗した際の印象が悪くないことは皆さんも想像に容易いだろう。なぜならスモールプラットフォームの究極系かつ最終系(?)であり、ここからMAZDA3やCX-30が派生したのだから、2台の要素を当然含めた上で電動車両としての魅力がプラスされたクルマなのだから。

電気自動車プロトタイプe-TPVを走らせた時の最初の驚きは、電気自動車ながら、モーターの魅力が全て、というクルマではなかったこと。これはどういうことか?

電気自動車に乗ると、当然ながらこれまでの内燃機関とは全く違うモーターのフィーリングにまず感動する。エンジンと比べたら間違いなく「静かで、滑らかで、力強い」わけで、つまりモーターの特性そのものが魅力として強く印象に残るのが普通だ。しかしながらe-TPVは走り出した瞬間、あれほど驚いたはずのMAZDA3やCX-30を凌駕する質の高い動きを見せ、まずそこに感動を覚える。つまりモーターの静かで滑らかで力強いという特性そのものではなく、最初にクルマの全ての動きが上質な感覚を伴っていることが、遥かに強い印象として伝わってくるのだ。

だからアクセルを踏み込むと確かにモーターの静かで滑らかで力強い感覚はあるものの、それ以上に自分の操作した分だけ忠実に動くことを痛感して感動を覚える。もちろんほとんどの自動車は操作に対して忠実に動くが、e-TPVの忠実さは特に極まっており、まるで鉛筆を持って文字を書いたり、ハサミで紙を切ったりするような感じの、クルマというある程度の大きさのものを動かしているとは思えないほど自分の手の内にある感覚がすごく伝わるのだ。

マツダの電気自動車プロトタイプ「e-TPV」

前後左右あらゆる方向でシームレスかつ意のままの動きを可能とする驚きの操縦性

マツダの電気自動車プロトタイプ「e-TPV」

マツダは今回、ペダルを操作した結果生まれる加減速の力を、まるで自分の筋肉を動かすように自在に扱えるように、モーターペダルという考え方を入れた。これはペダルによるトルクのコントロールの自在性に加え、加減速時のサウンドを作り込むことでトルクの向きと大きさを知覚させ、合わせて遅れのない応答を作り込んで生み出すというもの。だからペダルを踏みこむ速度や強さなど、自分の操作した感じがクルマの動きと極めて高くシンクロする感覚で、これまで以上に一体感という表現が相応しいものを感じる。

それはもちろんハンドルを操作した時も同様で、ハンドル操作に対して自然な感覚で曲がっていくMAZDA3やCX-30より、さらに極まっていると感じる。MAZDA3やCX-30では、Gベクタリングコントロール+という制御が入り、これによりクルマの姿勢はきめ細やかに制御されるが、このプロトタイプではさらにそれ以上の制御が盛り込まれる。

実はGベクタリングコントロールおよび+の開発においても、マツダはこのe-TPVを主としてきた。なぜならばモーター駆動であるがゆえに、内燃機関搭載車のトルクダウン制御だけでは実現できない範囲の制御が行えるからだ。実際このe-TPVでは、コーナーから脱出時のハンドル戻し操作時に、内燃機関モデルでは実現不可能なトルクアップによる後方荷重移動が行われており、さらなる挙動の安定化が図られる。また同時にこのe-TPVでは内燃機関以上のGベクタリングコントロールを可能とすることから、これでGベクタリングコントロールの制御を様々に開発し、その過程で内燃機関搭載モデル用へとGベクタリングコントロール+を派生させていったという。

先に記したペダル操作における加減速時の高い一体感、そしてモーター駆動ならではの広い作動領域を得たGベクタリングコントロールによる曲がる方向での極めて高い一体感の融合で、e-TPVは前後左右あらゆる方向でシームレスかつ意のままの動きを可能とする驚きの操縦性を感じる乗り物に仕上がっていたのだ。

東京モーターショー2019で発表されるマツダの電気自動車に大きな期待が掛かる

マツダの電気自動車プロトタイプ「e-TPV」

また同時に印象的だったのは、MAZDA3やCX-30を試乗した時に感じたパワートレーンの決定力不足が、このe-TPVでは払拭されていると感じたこと。フィーリングに優れ、なおかつ物足りなさを感じないモーターという存在を手に入れたことで、このスモールプラットフォームは動力性能的にも運動性能的にもひとつのゴールにたどり着いた感があると思えた。

e-TPVの走りから感じるこの上ない上質さと清らかな感じは、これまでに感じたことのないもの。当然ながら今まで数多くの電気自動車を試乗してきたが、そうした経験を持ってしても驚きを感じる仕上がりだった。

というか、パワートレインが電気なのか内燃機関なのかということを問う必要がないほど新しい感覚に溢れた走りがここに生まれていた。そうした感動を覚えながら、改めてこのクルマの存在や成り立ちを考えてみると、これはなかなかに凄いものだと分かる。

以前開発担当役員だった藤原清志氏に話を聞いたときには、第一世代のEVは自前で作るという話を確かにしていた。その頃の我々メディアとの認識は、マツダが作る第一世代のEVはとりあえず目前に迫った中国でのEV販売に対応するための、現地企業とのパートナーシップによるものだと考えられていた。しかしながら中国で販売するEVは確かにそうである一方で、まずはこの第一世代のEVというものを、スモールプラットフォームのコア・テクノロジーとして、電動化対応スモールプラットフォームというポートフォリオを描いていたのだから恐れ入る。

さらにいうならば第二世代のEVはトヨタやその他と共同で開発するという事が既にアナウンスされている。だが、これも基本的な部分は複数のメーカーで共有するものではあるものの、細かな部分に関してはメーカーごとに作り込んでいくのだという。

だからマツダはこの第二世代のEVに関しても、いま作っている第一世代のEVで得た知見を盛り込んで独自性を出していくことは間違いない。そう考えると東京モーターショー2019で発表されるマツダの電気自動車には、実に大きな期待ができる。そしてこれが登場するとマツダの世界観はより一層広がりと、深みを得ていく事になる。そう考えると今年の東京モーターショーでの発表がますます楽しみになってくるのだ。

[筆者:河口 まなぶ/撮影:マツダ株式会社]

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