注目の20歳、神尾楓珠インタビュー 終始一貫、言葉に迷いなく「常にからっぽな状態でいたい」

注目の20歳、神尾楓珠インタビュー 終始一貫、言葉に迷いなく「常にからっぽな状態でいたい」

──心を占めているものは何ですか?

「仕事です。仕事のために生きているみたいなもんですからね」

──日々のモチベーションはどういうところにあるんですか?

「仕事です。仕事がなかったら僕は死んでます。仕事しかないですね」

神尾楓珠さん、20歳。ドラマ「左ききのエレン」(MBS/TBSドラマイズム)で主演を務めることを機にインタビューをさせていただいたのですが、インタビューが終わった後、しばらくの間なんとも言えない不思議な感覚を経験しました。インタビュー本編への前置きが長くなってしまうのですが、読んでいただけると幸いです。

取材に向けて、大胆かつ繊細な演技で印象を残したドラマ「恋のツキ」(テレビ東京ほか)や、一気に知名度を上げた「3年A組 -今から皆さんは、人質です-」(日本テレビ系)、上流階級の名家に仕える使用人を演じた映画「うちの執事が言うことには」といった作品をきっかけに掲載されたインタビュー記事を十数本拝読したのですが、印象的だったのがインタビュー記事の中で一貫している「仕事が楽しい」「仕事にしか興味がない」という発言。

寡黙そうでミステリアスなビジュアルも相まって「20歳で、このブレなさはどこから来るのだろう」という思いを抱く一方、筆者の頭の隅にずっととどまっていたのは、神尾さんが生徒役を演じた「都立水商!~令和~」(MBS/TBSドラマイズム)における取材で、教師役を演じた竜星涼さん、松井玲奈さんが「(生徒の中での)ムードメーカーは神尾くん」と口をそろえて話していたことや、「3年A組」でクラスの盛り上げ役だったという話。そこからさらに過去の出演作品やインタビュー記事を見てみるものの、あまり人物像を捉えることができないまま、取材当日を迎えました。

約20分間、話し手1人、聞き手1人の状態で質問をさせていただき、たくさんお話を伺ったのですが、やはり印象的だったのは冒頭のような「仕事」に対する真っすぐな思い。それでいて、こんなに話が一貫しながらもまったく人物像を捉えられない、つかんだと思ったら離れていく…。そんな不思議な感覚に覆われていました。言葉や態度でここまで強い芯を見せられたにもかかわらず、「神尾楓珠さんってどんな人?」と聞かれても、今は答えを出すことができそうにありません。

ほとんどの質問に即答で答えてくださったり、淡々としながらも笑い声は絶えなかったり。前置きがとても長くなってしまったのですが、なるべく言葉や雰囲気をそのままに、本作で“凡才”のデザイナー・朝倉光一を演じる神尾さんのインタビューをお届けします。

■感情がすぐ表に出る猪突猛進な役を演じ「普段自分がどうとかはあまり関係ない」

──本作では、高校時代に出会った天才画家・山岸エレン(池田エライザ)の存在が光一の中で大きくなり、デザイナーになるまで、そしてなってからも、原動力となっていく描写が印象的です。神尾さんにとって、原動力になっている存在はありますか?

「同世代でいうと、萩原利久の存在がすごくでかくて。一番仲がいいんですけど、たぶん、一番お互い意識し合ってますね。『3A(3年A組)』でもずっとお互いを意識しながらやってたし、『3A』が終わってからも、たぶんお互い(が出演している)作品を見てると思います。連絡も頻繁に取り合ってますね」

──萩原さんの存在は、ライバルか仲間かでいうとどちらになりますか?

「どっちもです。親友だし、ライバルだし、みたいな」

──(取材はMBSのある東京・赤坂で行われ)赤坂のカレー屋さんに2人で行かれていましたよね。

「行きました(笑)。最近全然会えてないんです。忙しくて…」

──萩原さんとは、どういうところで意気投合したのですか?

「それは仕事に対する熱量だけだと思います。ほかのことで、気が合うことがないんですよ。趣味も全然違いますし」

──2人でいる時はどんな話をするんですか?

「全然大したことないです。3分経てば忘れるくらいの話です(笑)」

──「3年A組」「都立水商」と、高校のクラスを舞台に同世代が集まる作品で存在感を発揮されましたが、本作では広告代理店に勤務するデザイナー役です。役作りで意識したことはありますか?

「光一は社会人ではあるんですけど、“THE社会人”って感じでもないんですよね。広告代理店のデザイナーという部分については、(原作者の)かっぴーさんが元々デザイナーだったということもあって、原作を読めば結構リアルに描かれていたんですよ。なのでデザイナーのことに関しては、(情報源は)原作だけですね。原作を見て理解して、演技に臨んでいます」

──演じていて、難しい部分はどのようなところですか?

「光一は感情の起伏がすごく激しいんです。感情がすぐ表に出るタイプなので、そのへんの調節が難しいです」

──神尾さん自身は、あまり感情を出されないタイプなのかなと感じます。

「普段、僕は出ないです。でも、役と自分は別物という考えなので、普段自分がどうとかはあまり関係なくて。ただ、その…全体のバランスとして見た時に、感情が出るにも割合というか、感情の強さがあるじゃないですか。それが全部一辺倒になっちゃうと面白くないので、そのへんの調整が難しいなと思います」

■「プライベートの自分は、常にからっぽな状態でいたい」

──光一は、会社で一緒に働く先輩や同僚、クライアントに振り回されたり、影響を受けたりしながら「本当の自分」を見つけようともがき成長していきます。神尾さんは、最近影響を受けた人からの言葉、もしくは本で読んだフレーズ、映画での印象的だったセリフなどはありますか?

「プライベートの自分は、まったくセンサーを張ってないんですよね。だから、人の言葉を聞いて何かを思ったとかがないんですよ、全然。心にとどまらないです。常にからっぽな状態でいたいと思っているので、あんまり人に影響されたりとか、振り回されたりとかはないですね」

──(思いがけない言葉に思わず息をのみ)では、逆に相談にのった時など、自分が誰かに言った言葉がその人に影響を与えたかもしれないな、という経験はありますか?

「(笑)」

──話が大層になりすぎましたかね?(笑)

「人に影響を与えるとか、絶対ないですよー。人にアドバイスしたりとかもないですし。人は人だから」

──人は人…。

「人は人です(笑)」

──言い切ってしまうところが、芯の強さを感じます。

「そうですね、割り切りすぎている部分が…。でも自分が言ったところで、結局その人がそれをやるかどうかは自分次第だし。あと、自分のやり方を教えちゃうのは、なんか…。嫌じゃないですか?」

──手の内を明かすのが、ですか?

「そうそうそう。なんでわざわざそんなことするんだろうって…」

スタッフ一同「(笑)」

「僕よりもまだ経験が浅い子から相談されることもあるんですけど、自分の中で一番大事にしてることは“絶対!”(強調ぎみに)教えないです。俺、性格が悪いんですかね?(笑)。表面的なことだけ言って、本当にこれが大事、っていうことは“絶対!!”(さらに強調して)教えない。一応、身になることは言いますけどね。自分の中の大事度がそんなに高くないこととか、誰でも言えるようなことだけ言って、自分の中で本当に大切にしてるものは言わない」

スタッフ一同「(笑)。意外です…!」

──原作を読んで、光一は「“何者”かになりたい」という気持ちが心を占めていると感じたのですが、神尾さんの心を占めているものは何ですか?

「(今まで以上に即答で)仕事ですね。仕事のために生きてるみたいなもんですからね」

──過去のインタビューをいくつか拝見したのですが、一貫しておっしゃっていますよね。

「そうですね(笑)。休みの日も結局仕事のことを考えてるから、休みっていっても結局休みじゃないんですよね! 肉体的には休みですけど、精神的には現場行ってますからね」

──精神的には現場…!

「(笑)」

──例えば今後、音楽を題材とした作品に出ることが決まったとしたら、音楽を聴く、楽器を練習する、コンサートを見に行く…ということも含めて「精神的には現場」になるんですかね?

「なると思いますね」

──今後の作品のために、今意識して取り入れていこうと思っているものはありますか?

「まったくないですね(断言)」

──…………。これまでの神尾さんとの会話が頭の中で結びつかなくて、言葉が出てこなくなってしまいました。

「(笑)。今、そういう音楽系の作品もないし…(笑)。今後のことを考えて先取りする人もいると思うんですけど、僕、先取りができないんです。作品が来てからじゃないと、スイッチが入らなくて」

──「左ききのエレン」のお話が来てから、準備したことはありますか?

「いや、これは…。準備期間がめちゃくちゃ短かったんですよ! 本当に!!(笑)」

スタッフ一同「ごめんなさい!」

「あはは(笑)。なのでデザイナーとして絵を描くとか、パソコンでデザインをしてみるというのも、全然準備をする時間がなかったんです。役のイメージは原作を読んで理解できていたので、準備期間が短くてもなんとかつかめたんですけど、デザイナーとしての振る舞いは現場に行ってからその場で覚えていました」

──本作の撮影は「予定より巻いて終わることが多い」とお聞きしました。予定より早く終わった日は、その後はどのように過ごすことが多いですか?

「(即答で)次の日の準備です」

──……!

「次の日の準備をする時間が増えて良かったーって思いながら、台本を読んだりします」

──遊びに行くようなことは…。

「遊びに行くこともありますよ。体力に余裕があれば…。でも普通にごはんを食べて、帰るだけです」

──何がお好きなんですか?

「(即答で)焼き肉が好きです」

──いろいろなインタビューでもおっしゃっていましたよね。本当にブレないですね。

「ブレないですね!」

■今後、達成したいことを聞くと「意識したことがない」

──出演作品も途絶えず、露出も増えて、着実に活躍の幅を広げていらっしゃると感じています。ご自身では今の状況をどのように捉えていますか?

「全然実感ないですね」

──1年前の今頃と比べると、すごく忙しくなったのではと思うのですが…。

「はい、それはそうなんですけど…。でも、なんか…。別にそんなに忙しくないですよ」

──……本当ですか?

「(笑)。はい(笑)。有名な俳優さんの話を聞いたりすると、『あー、俺全然忙しくないなぁ』って思います。そういうことを聞くと、刺激になります」

──先輩や同世代の姿が刺激になる中で、今後達成したいことはありますか?

「達成したいこと…。あんまり意識したことがないですね。今、目の前にあることだけに集中するので、あんまり先のことは考えてないです。『この作品に出たから、次は』とかもあんまり考えてないですね」

──神尾さんと同世代くらいの俳優さんにお話を聞く機会も多いのですが、結構「こうなりたいです!」と目標を掲げる方が多いので、新鮮です。

「(笑)。全然ないです。こうしたいとか、こうなりたいとか、こういうのに出たいとかがないですね」

──日々のモチベーションはどういうところにあるんですか?

「仕事です。仕事がなかったら僕は死んでます。仕事しかないですね」

──……! すごくやりがいがあるんですね。

「そうなんです」

──では、共演してみたい方はいらっしゃいますか?

「(しばらく考えて)難しいですね…。いっぱいいます。絞れないなぁ…。でも、あんまりそれも意識しないかもしれないです」

──たった20分お話を聞いただけで神尾さんのことを分かったような気になってしまうようなことを言いますが、そうお答えになるんじゃないかなと思っていました。

「あはは(笑)。普段、何も考えてないだけですよ(笑)」

──不思議な感覚です。すごくいまどきの若者っぽい一面もあるし、人生を達観した30、40代の方と話しているような気にもなりますし…。

「今日、取材で『本当に20歳ですか?』『話しているとおじいちゃんみたい』と何回も言われました(笑)」

──ほかの人にはない、持ち味ですよね。

「(笑)。1周回ってる感じですかね(笑)」

プライベートなど、神尾さんの素顔に迫るインタビューができればいいなとぼんやり考えながら取材に伺わせていただきましたが、結果として、終始一貫して「仕事」への向き合い方をお聞きするインタビューとなりました。

特に驚かされたのは、「常にからっぽな状態でいたい」という言葉。中身のない、薄っぺらい人になるのを恐れて、何かを吸収したいという思いで本や映画、音楽を詰め込んだり、偉人や著名人の言葉をまるで自分が言ったかのように発言したり。「見たものや聞いたこと、そしてそれらに触れた時の感情を自分の中の引き出しにため込んで、いつでも出せる状態にしておけることが理想」という考えで生きてきた筆者にとって、神尾さんのその発言はすごく鮮やかに映りました。

神尾さんの体当たりでありながらも繊細な演技が光る「左ききのエレン」。美しい映像の中で、さまざまな感情がよどみ、渦巻く作品です。全10話、ぜひ最後までご覧ください。

【プロフィール】


神尾楓珠(かみお ふうじゅ)
1999年1月21日生まれ。東京都出身。みずがめ座。O型。2015年、24時間テレビドラマスペシャル「母さん、俺は大丈夫」(日本テレビ系)で俳優としてデビュー。主な出演作は、映画「うちの執事が言うことには」「HiGH&LOW THE WORST」、ドラマ「恋のツキ」(テレビ東京ほか)、「こんな未来は聞いてない!!」(フジテレビほか)、「3年A組 -今から皆さんは、人質です-」(日本テレビ系)、「都立水商!~令和~」(TBSほか)、YouTube連続ドラマ「主人公」など。舞台「里見八犬伝」が上演中。20年には映画「転がるビー玉」が公開予定。

【番組情報】


「左ききのエレン」
10月20日スタート
MBS 日曜 深夜0:50~1:20(初回は深夜1:15~1:45)
10月22日スタート
TBS 火曜 深夜1:28~1:58
※放送時間は変更の場合あり

<配信情報>U-NEXTで10月22日深夜2:00から独占配信。TVer、MBS動画イズムで見逃し配信予定。

【プレゼント】


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●締め切り:2019年11月5日(火)正午

●発表方法:当選者の発表は、賞品の発送をもって代えさせていただきます。あらかじめご了承ください。

取材・文/宮下毬菜(TBS・MBS担当)
撮影/蓮尾美智子

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