アイドルの握手会に泥酔して並んでいた男 咎められてスタッフに殴りかかる 裁判で語った“動機”とは?

本当に恐ろしい仕事だと思います(写真はイメージです)

2014年、AKB48の握手会イベントでのこぎりを持った男がグループのメンバー2人とスタッフ1人を切りつけ負傷させた事件がありました。それ以来、おそらく警備は強化されているのだとは思いますが、不特定多数の人間が集まるイベントであれば中には問題のある人間が紛れ込んでしまう可能性は常にあります。

アイドルであればどんなファンに対しても笑顔で対応しなければならないのでしょうが、目の前にいる人間がどんな人間かわからないままそれをすることがどれだけ大変なことか、想像するとアイドルの女の子の心の強さには頭が下がるばかりです。

握手会などのイベントに来るほとんどの人は純粋にアイドルを応援したいという気持ちのファンです。しかしごく稀にそうではない人もいるのです――。

あるアイドルの握手会の待機列に並んでいた土肥靖洋(仮名、裁判当時31歳)はスタッフに退場を促されました。

「飲酒をしてる方の入場はお断りします」

という注意書きが貼ってあるにもかかわらず彼は右手に焼酎の紙パックを握りしめていました。スタッフは丁寧な口調で話していたものの彼は激昂し大きな声で怒鳴りはじめました。

「持ってるだけだよ! 呑んでねーよ!」

すぐにスタッフの責任者が駆けつけ事情を聞こうとしましたがまた彼は怒鳴り声をあげました。

「持ってるだけなのに退場しろって言われたんだよ!」

持ってるだけ、と彼は言いますが責任者は後の取り調べで、

「明らかに酒臭かったので酔ってると思いました」

と供述しています。

「お客様、呑んでますよね?」

そう確認すると彼の怒りは頂点に達してしまいました。
「呑んでねえって言ってんだろ! ふざけんな!」

彼は責任者の襟首を掴んで揺さぶり、拳で殴りかかってきました。

幸い、殴られることもケガをすることもありませんでしたが、すぐさま110番通報をし、駆けつけた警察官によって彼は暴行の現行犯で逮捕されました。警察署で行われた飲酒検知では呼気1リットルあたり0.52ミリグラムのアルコールが検出されました。

彼は福岡の高校を卒業後に上京、職を転々としながら生活をしていて、事件当時は漫画喫茶などで寝泊まりをする住所不定の状態で倉庫作業の仕事をしていました。過去に罰金前科が2犯、いずれも酒に酔った上でのケンカです。

「お酒は毎日、1000円くらいは呑んでます」

と言いながら

「呑みすぎると自分を抑制できなくなるのはわかってました」

とも話しています。

過去に事件を起こしていることもあって自分の酒癖の悪さについては十分自覚しているようです。しかしそれでも毎日酒を呑む生活を改めず、

「酔った勢いでやってしまいました。反省してます」

などと動機について話していました。こんなことを言われても納得できる人はそうそういないのではないでしょうか。

アルコール依存症などの病気なのではないか、とも思いますが彼本人は病院に行って医師に自身のアルコールに関する相談はしていませんし、そうするつもりもないようです。

今後は、「自分から呑むことは控えます。他人から勧められて断れない時はしょうがないですけど、でも自分を失うような呑み方はしないつもりです」ということです。

この事件は被害者にケガはありませんでした。大きな事件とは言えません。判決は罰金20万円という軽いものですし、未決勾留日数が1日5000円として罰金から差し引かれるので実際には彼は1円も払う必要はありません。

しかし、もしも彼が警備の目をかいくぐって、暴力が力の弱い女性アイドルに向けられていたならば……もっと大きな事件になっていた可能性だってあります。

裁判が終わり次第彼は福岡に帰るようです。

アルコールの問題は基本的に自分一人だけでは解決できません。家族の協力と理解が得られるかどうか、それが彼の立ち直りの成否を左右します。大きな事件を起こす前に、誰かを傷つける前に、何としても立ち直っていただきたいものです。(取材・文◎鈴木孔明)

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