【台風19号】ロートレックなど保管の収蔵庫に浸水 川崎市市民ミュージアム 三つのシャッターと防火扉でも防げず

考古学系の収蔵品が収められた収蔵庫。水が引いた後の室内には収蔵品や机が散乱していた=川崎市中原区の市民ミュージアム(市提供)

 川崎市は18日、台風19号の影響で、市市民ミュージアム(中原区)の地下収蔵庫が浸水し、多くの収蔵品に被害が出ていると発表した。収蔵庫には日本画など約26万点が保管されていたが、被害の全容はつかめていない。市は確認作業を進めるとともに、文化庁と協議しながら損害のあった収蔵品の修復に当たるとしている。

 市文化振興室によると、1988年開館の同ミュージアムは絵画や浮世絵、古文書、民具、写真、漫画、映画のフィルムなど多岐にわたる芸術品や資料を所蔵。地下1階に9室ある収蔵庫で、分野別に保管していた。

 大矢紀氏の日本画「䬟(りゅう)」33点、安田靫彦の日本画「草薙の剣」(取得価格7800万円)、ロートレックのグラフィック「ムーラン・ルージュ」(同2430万円)などの高額品もあった。

 台風が上陸した12日夜は、指定管理者の社員4人が地下の監視室で当直として待機していた。午後7時半ごろに地下室内に水が入ってきたため、収蔵庫通路入り口に設置されている防火扉の前に土のうを積んで対応。しかし約30分後には、防火扉の反対側にある搬入口方向のシャッターから大量の水が流入し、社員らは退避を余儀なくされたという。収蔵庫前通路の壁には約2メートルの高さまで浸水した形跡があった。

 同ミュージアムのある等々力緑地は当時、広範囲が冠水。緑地にあふれた水がスロープをつたって地下の搬入口に流れ込んだとみられる。搬入口から収蔵庫前通路に至る経路上には三つのシャッターと防火扉があったが、いずれも水の浸入を防ぐことはできなかった。

 台風通過後の13日時点で搬入口前の地下駐車場は4メートルほど水がたまっており、収蔵庫に近づけない状態だった。国土交通省の大型ポンプ車が連日排水を行い、18日昼ごろにようやく収蔵庫内を確認できたという。

 市の担当者は「もしかしたら(無事)と思っていたが、悲しい。寄贈品も多く、申し訳ない」と肩を落とした。扉を開けるたびに学芸員から落胆の声が漏れたという。

 地下にあった機械室も浸水しており、市は「照明や換気を確保しながら、浸水被害の詳細を確認していきたい」と話した。

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