メクル第406号 笑顔や幸せ 届けたい バスガイド・重田さん

 貸(か)し切りバスに乗車し、安全な運行のサポートや旅客への観光案内をするバスガイドになって9年目。お客さまにとっては一生に一度かもしれない旅行なので、笑顔で帰っていただけるよう心がけています。

明るい声と表情で楽しい旅を盛り上げる重田さん=長崎市内

◆幼少期(ようしょうき)は人見知り
 高校卒業まで、対馬(つしま)市で育ちました。小さいころは母の後ろにかくれ、人に話しかけられても母に答えてもらうほどの人見知り。新しい友人たちと出会った高校時代を境(さかい)に、所属(しょぞく)していた吹奏楽部(すいそうがくぶ)のステージで人前に出る度胸(どきょう)も付き、性格(せいかく)が変わったのかなと思います。
 先生の勧(すす)めもあり、バスガイドになるため、今の職場(しょくば)の試験を受けて合格(ごうかく)。一人(ひとり)暮(ぐ)らしも長崎市に来たのも初めてで、分からないことだらけでした。特に言葉の面では、イントネーションの違(ちが)いにも悩(なや)まされました。

◆シナリオ丸暗記
 初めの半年間はみっちり研修(けんしゅう)。観光名所の説明や長崎くんちなどの歴史が書かれた「シナリオ」を2冊(さつ)分、一言一句間違(いちごんいっくまちが)えずに覚えるテストが毎日ありました。「~は」を「~を」と言うだけでも不合格(ふごうかく)です。
 1回分が7ページになることもあり、ブツブツ声に出して必死に暗記。シナリオを肌身離(はだみはな)さず持ち歩き、通勤(つうきん)するバスの中でも復習(ふくしゅう)しました。文章に区切り線を入れたり、「抑揚(よくよう)を付ける」「手先に注意」などと書き加えたりして今も使い込(こ)んでいます。
 休みの日には、現場(げんば)へ足を運ぶことも。本番で迷(まよ)わず案内できるよう、自分の目で場所を確(たし)かめ、どこを通れば安全なのか、見学コースをチェックしています。

(右上から時計回りに)ガイドバッグ、制服の帽子、シナリオ、旗、笛、白手袋

◆年齢層(ねんれいそう)ごとに工夫
 行楽シーズンの9~12月中旬(ちゅうじゅん)は、ほぼ毎日乗務(じょうむ)。泊(と)まりがけの仕事もあります。バスに乗らない日は、次の仕事のための調べものや季節に合ったエピソードなどを準備(じゅんび)しています。
 自分が高校生の時、修学(しゅうがく)旅行で担当(たんとう)してくれた県外のバスガイドさんが、旅行地と対馬の面積を比(くら)べて分かりやすく説明してくれ、ぐっと身近に感じられました。車内で飽(あ)きずに楽しく過(す)ごせる工夫を見習って、お客さまの年齢層(ねんれいそう)に合わせ、やさしい言葉に言い換(か)えて説明したり、クイズなどを考えたりしています。

◆心に刻(きざ)んだ失敗
 仕事を始めて2、3年目に忘(わす)れられない失敗をしました。修学旅行の案内で、ある見学地の説明をしようとした時のこと。緊張(きんちょう)で頭が真っ白になり、何も言葉が出てこず黙(だま)り込(こ)んでしまったんです。「ガイドさん、がんばってるから残りのガイドもよろしくね」という言葉に励(はげ)まされ、「もう同じ過(あやま)ちは繰(く)り返さない」と心に刻(きざ)みました。

◆初心を忘れず
 バスガイドは、いろんな景色を見ながら、毎回違うお客さまと会わせてもらえる仕事です。朝が早かったり、夜も遅(おそ)かったりと大変な面もありますが、「また来たい」という言葉をいただけた時は、とてもやりがいを感じます。それに、各地のおいしい食べ物やお土産も学べて、旅好きにはたまりません。
 初心を忘れず、お客さま一人一人に寄(よ)り添(そ)って、笑顔や幸せを届(とど)けられるガイドになりたいです。

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