完全分煙は不可能 諫早市議会の喫煙所継続使用

© 株式会社長崎新聞社

受動喫煙の健康影響を指摘する大和教授=北九州市八幡西区、産業医科大

 7月から一部施行された改正健康増進法で、諫早市は同じ庁舎でありながら、行政エリアが敷地内禁煙の「第1種施設」、議会エリアは屋内に喫煙専用室を設置できる「第2種施設」と区分され、議会内喫煙所1カ所が継続使用され、非喫煙者の議員や市民から疑問の声が上がっている。喫煙対策の専門家である産業医科大(北九州市)の大和浩教授(59)=医学博士=に受動喫煙の健康影響や同議会の対応の是非を聞いた。

 -喫煙や受動喫煙の健康影響は。
 たばこの煙は、大気汚染の原因となる大気中の微小粒子状物質「PM2.5」である。人間にとって異物であり、肺に吸引されて炎症を起こし、血液を通して炎症が全身に回り、動脈硬化を起こす。非喫煙者も受動喫煙で心筋梗塞、脳卒中の発症リスクが高くなり、その結果、肺がんや脳卒中などで死亡する人は年1万5千人と推計されている。

 -諫早市議会の対応は。
 喫煙専用室には室外から室内への空気の流れの技術的基準が示されているが、それをクリアしても煙の漏れは防止できない。吸わない議員、議会フロアで働く市職員や清掃業者、用事で訪れる市民の受動喫煙も大問題。この人たちが病気になったら喫煙者の議員が責任を取れるのだろうか。改正法の趣旨である「望まない受動喫煙」をなくすためには敷地内全面禁煙以外にあり得ない。裁判所も「第2種施設」に分類されたが、改正法の趣旨をくみ取り、自ら敷地内禁煙と決めた。議員は市の方針を決める立場であり、司法機関と同様、率先して敷地内禁煙に取り組むべきだ。吸う場所がなくなれば禁煙できる人は多い

 -「望まない受動喫煙を防げない」という理由は。
 喫煙室のドアのふいご作用で生じる風圧で煙が室外に押し出される。喫煙室から出てくる人の後ろに空気の渦ができ、それに巻き込まれた煙が室外に出る。さらに、喫煙者の肺に残る煙が、呼気として室外に持ち出される。繰り返すが、完全分煙は不可能。喫煙者は鼻の感覚が鈍くなり、たばこの臭いが分からないから「喫煙室があれば受動喫煙が防止できる」と勘違いしている。

 -その他の問題は。
 喫煙後45分間、口臭から有害なガス状物質が出続けるという研究結果がある。奈良県生駒市は喫煙した職員は45分間、奈良県庁は時間にかかわりなく、エレベーター使用禁止と決めた。たばこの臭いがする職員と狭い空間に乗り合わせた市民がたばこ臭にさらされないためである。

 -喫煙用の集じん機の効果は。
 集じん機はテーブルの中央に吸い込み口があり、床に向かって排気する。そのため、たばこの煙と臭いを喫煙室の出入り口から押し出すので、煙の漏れの原因となる。煙が室内の空気を撹拌(かくはん)するため、天井の排気装置から排気される効率が悪くなる。煙と一緒に冷暖房された空気も排気されることで発生する電気料金は年間約20万円。税金のムダ遣い。

 -喫煙者は「喫煙する権利がある」「たばこ税は自治体財政に貢献」という。
 喫煙の自由はあっても権利ではない。いついかなるところで保障される自由ではないという最高裁判例(1970年)がある。喫煙の結果、「望まない受動喫煙」が発生するなら、その自由は行使できない。喫煙者が将来、病気にかかり、労働力損失や医療費などを加味すれば、たばこ税収の2倍以上の損失が出るのは以前から知られている。

 -加熱式たばこは「煙を出さないから問題なし」という声もある。
 副流煙は出ていないが、口から白いエーロゾル(微小な液体の粒子)を吐き出している。エーロゾルは室温でガス(気体)に変化するため、すぐに見えなくなるが、ニコチンと発がん性物質を含む有害なガス成分が周囲の空気を汚染する。加熱式たばこにも受動喫煙はある。禁煙の場所での使用を認めてはならない。

 -市職員や市民が使用する屋外喫煙所がある。
 市職員の勤務時間中の喫煙は地方公務員法35条の職務専念義務に反している。敷地内禁煙としただけでなく、出張者を含め勤務時間中の喫煙を禁止する自治体が増えている。

 -「急な禁煙は無理」という声がある。
 喫煙はニコチン依存という病気。禁煙するとイライラするのは禁断症状。ニコチンガム、ニコチンパッチでニコチンを補給すれば禁断症状を緩和し、その量を徐々に減少させることでスムーズに禁煙できる。まず、処方箋なしで街中の薬局で購入できるニコチンガム、ニコチンパッチ(中と小)で禁煙にトライを。それで禁煙できなかった場合は禁煙外来でニコチンを感じる細胞をブロックする内服薬、あるいはニコチンパッチ(大)を処方してもらおう。致命的な病気になる前に禁煙治療を受けることを勧めたい。

 【略歴】大和 浩(やまと・ひろし):1986年、産業医科大卒。アスベスト研究を経て、自身も8回目の禁煙挑戦で成功。以後23年間、喫煙対策を専門とし、都道府県の喫煙対策も助言している。