「個性を伸ばす」「平等のための知識」「文化的多様性」「サステナブルな生き方」──フィンランド教育の根底に流れる4つの大切なこと

フィンランドの学校や先生の拠りどころである、フィンランドの教育指導要綱とも言える「NATIONAL CORE CURRICULUM FOR BASIC EDUCATION 2014」の中身を一緒にひもといていきます。

これまでの【フィンランド教育はなぜ子どもを幸せにするのか】はこちら

フィンランドの教育指導要綱「NATIONAL CORE CURRICULUM FOR BASIC EDUCATION 2014」

さて、これまでは“フィンランドの先生の習慣”として子どもや保育、教育に対する日本とフィンランドの違いに光を当てて紹介をしてきました。

ここからはフィンランドの教育のコアな部分を掴み、読者の生活や仕事に活かせる形でフィンランドの教育を共有していくため、“NATIONAL CORE CURRICULUM FOR BASIC EDUCATION 2014”(日本の“教育指導要綱”のような位置づけのもの)を紹介します。原文はフィンランド語ですが、英訳されたものがKindleで入手できます。ここでは、よりエッセンスが伝わるように主要な部分は英語と意訳で紹介していきます。

NATIONAL CORE CURRICULUM FOR BASIC EDUCATION 2014

日本の“教育指導要綱”との大きな違い

内容の紹介をする前に、日本の“教育指導要綱”と比較した場合の大きな違いを紹介します。タイトルに“CORE”が付いていることからもわかるように、内容はコアな部分のみで、詳細な記述、たとえば“小学校2年生の算数ではどんな教材を使って、どんなアクティビティをして…”といったことはほとんど記載されていません。その分このカリキュラムを読むと、“子どもにとって生きていくためのスキルとはなにか”“教科学習をするのはなんのためなのか”がより深いレベルで理解できる、と私は考えています。

フィンランドの教育において大切なことの一つに「その場、その状況、その子どもによって教える内容やそのための最適なアクティビティは違っていてよい」という考え方があります。“NATIONAL CORE CURRICULUM”に準じた”LOCAL CURRICULUM” というものがあり、さらに「学校ごと」「クラスごと」の学びの計画をもっています。

フィンランドは、北はラップランドといった北極圏の地域、南は首都ヘルシンキ、西側はスウェーデンの影響を強く受け、東側はロシアの文化もあるといった、強い地域特性があります。さらに移民の多い地域やフィンランド人の多い地域といった細かな地域事情もあります。したがって、それぞれの学校や先生が統一されたカリキュラムを教えるのではなく、コアカリキュラムに準じて目の前の子どもたちのためにアレンジして、学びの機会を提供することが重視されています

授業計画もだが「時間割」も先生が状況によってアレンジできる
アルファベットの学び方もクラスによってさまざま

まずフィンランドでは、以下の4つのことを大切にして、カリキュラムが組まれます(Underlying values of basic education)。

[その1]一人一人の個性を大事にしながら優れた教育を受けさせること(Uniqueness of each pupil and right to good education)

子どもが人間としてあるいは社会の一員として最大限に能力を発揮するには、一人一人が個人として大切にされ耳を傾けてもらいながら、社会生活に参加する第一歩としての学校生活を送ることが大切です。そしてそのためには、家庭と学校が子どもの“holistic well-being”(身体と心のすべてがヘルシーな状態であること)のために連携し、子どもに対して心を開き敬意をもって建設的に接していくことが求められます。

一人一人を大切に、は学校環境からも感じることができる

[その2] 民主主義社会の中で平等に生きていくための知識やスキルを備えること(Humanity, general knowledge and ability, equality and democracy)

民主主義社会の中で生きていくための子どもの人間性を育むため、知識やスキルは備えるべきものとして位置づけられています。生きていく上で「理想」と「現実」のギャップに出会ったときに、必要な知識をもちながら、自分のもつ価値観に従って判断できるように子どもをサポートします。とくに“equality(人々が平等であること)”はフィンランドの社会でもっとも大切にされており、カリキュラムでも強調されています。

クラスのルールやビジョンを示すポスターがところどころに見ることができる

[その3] 文化的多様性を大切にすること(Cultural diversity as a richness)

フィンランドは独自の文化をもっていますが、フィンランドの教育は文化の多様性を受け入れると決めています。現状(フィンランド以外のバックグラウンドをもつ子どもが増えている)に即すため、という見方もありますが、文化の多様性が子どもの「他を認める」柔軟性や創造性を育くむものとされています。

「平仮名で、自分の名前はどう書くの?」多くの子どもは“こんにちは”を知っていた

[その4] 持続可能な生き方をするために必要なこと(Necessity of a sustainable way of living)

教育においても“サスティナブルな未来を創ること”が重視されています。物理的な地球環境についてのみならず経済的、社会的、文化的にサスティナブルな生き方(思考や行動)ができる個人を育てるためには、“危機的な現状”を知識として学び、長期的な解決策を見聞きし、自分でも試みることが推奨されています。

小学校1年生の授業「ごみ捨ての仕方」

次回は、フィンランドにおいて“学び”がどのように定義づけられているのかについて共有していきます。

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