里子の甘える姿 失った愛情を取り戻すように 【連載】家族のかたち 里親家庭の今(4)

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 15年前、初めて里子を迎え入れた糸永富美男さん(57)、真利子さん(59)夫婦=長崎県佐世保市=は「ちゃんと育てないといけない」と自らにプレッシャーをかけて育てていた。でも「いい子」だった当時4歳の太一さん(18)は次第に対応が難しくなっていく。
 まずは反対の言動で反抗するようになった。幼稚園で「友達と仲良くしようね」と言うと、「仲良くしない」。はしの持ち方を何度注意しても直さない。経験を積んだ今、夫婦は、それらが里親の愛情を測る「試し行動」だったと分かる。でも当時はサインに気付く余裕もなく、富美男さんは「毎日の反抗がジャブのように効き、精神的に疲弊していきました」。
 3人の実子と同じように育てようとした。食べ物の好き嫌いは許さず、最後まで食べさせようとすると、吐くようになった。家に来てから3カ月。太一さんはストレスなどで体内に生じた有毒物質によって起きる自家中毒症になった。1週間ほど入院し、夫婦は気付かされた。「自分の枠にはめようとしていただけではないか」。そして、決意した。「ありのまま、全てを受け入れよう」
 太一さんはただ、安心して甘えられる大人を求めていた。約2年間の試し行動を終えると、甘えるようになった。始まったのは「赤ちゃん返り」。自分がどのように生まれて来たのかを知りたがり、真利子さんは出産の様子を再現してあげた。毎晩、寝る前には「大事だよ」と抱き締め、安心させた。懐で甘える姿は「失った愛情を取り戻そうとしている感じ」に映った。
 心の安定を取り戻し、小学校に入学。学校生活は教職員らの理解にも支えられ、大きな問題はなかった。ただ、太一さんは何となく感じていた。「人と違うのかな」。中学に進学しても「ばれたら面倒くさいし相手も困るだろう」と思い、自分が里子ということは周囲に言わなかった。
 高校3年になり、将来を考えた。里子としての不安や葛藤、そして温かい家庭に出会えた幸せを知るからこそ、こんな思いが湧いてきた。「里子のことを社会にもっと知ってほしい」。目指す道を福祉に決めた。


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