53歳パート主婦、今さらiDeCoに加入するメリットはないの?

老後2,000万円問題の報道もあり、資産運用を始めようと思っている人も多いかと思います。特に50代は教育費の目処もつき、老後資金を貯めるラストスパートをかけたいところです。


53歳からの加入はオススメできないと言われたけれど…

筆者はファイナンシャル・プランナーとして主に40代・50代の会社員世帯からご相談をいただくことが多いのですが、今回はiDeCoに興味を持ち、金融機関に話を聞きに行ったというAさんからのご相談についてシェアしたいと思います。

現在53歳のAさんはパート勤務で年収129万円、社会保険は夫の扶養になっています。老後2,000万円問題の報道を見て不安になり、資産運用を始めたいと思い始めていました。

そんな時に、金融機関でiDeCoのパンフレットを見かけました。早速、iDeCoの説明を受けたのですが、iDeCoは60歳までの積立制度なので今から加入するメリットは余りないと言われてしまいました。すっかりやる気を削がれてしまったAさんですが、諦めきれずに筆者の元へ相談に来られたのです。

年収129万円で7年間の税金軽減額は総額30万8,000円

AさんがiDeCoを始めた場合、メリットがあるのかシミュレーションをすることにしました。iDeCo公式サイトを利用すると加入診断から拠出限度額までを簡単にシミュレーションすることができます。iDeCoの掛け金は月々5,000円以上で1,000円単位になり、加入資格によって掛け金(拠出金)の上限が決まっています。

Aさんは扶養内でパート勤務をしているので第3号被保険者に該当し、月額2万3,000円(年額27.6万円)が上限になります。積立は60歳(59歳11ヶ月目)になるまで行うことができます。仮に53歳0ヶ月から59歳11ヶ月まで毎月2万3,000円を拠出した場合、総額は193万2,000円です。

運用については、預金など元本確保型と投資信託などの元本変動型を自分で選択するのですが、ここでは元本確保型の預金で運用すると仮定しておきましょう。

次に税制優遇についてです。Aさんの年収129万円が60歳まで変わらず、毎月掛け金を拠出した場合、税額軽減額は総額30万8,000円になります。詳細は以下の通りです。

所得税額(iDeCo未加入時)
年収(1,290,000円)-給与所得控除(650,000円)-基礎控除(380,000円)=(課税所得)260,000円

所得税は上記の課税所得に所定の税率を掛けて計算します。

260,000円×5%=13,000円/年間
53歳から60歳までの所得税: 91,000円

iDeCoの掛け金27万6,000円は全額控除できます。課税所得26万円から27万6,000円はマイナスしきれないため、課税所得はゼロになります。つまりiDeCoに加入することで所得税はなくなり、7年間で総額91,000円の軽減になります。

同様に住民税についても計算してみましょう。

住民税額(iDeCo未加入時)
年収(1,290,000円)-給与所得控除(650,000円)-基礎控除(330,000円)=(課税所得)310,000円

住民税は課税所得31万円に税率を掛けて計算します。市町村によって住民税の計算が異なりますが、ここでは10%として計算を行います。

310,000円×10%=31,000円/年間
53歳から60歳までの住民税: 217,000円

iDeCoにかかる手数料は最低1万9,217円から

いっぽうでiDeCoを行うには手数料がかかります。Aさんが支払う手数料についてシミュレーションを行いました。

気をつけたいのは、iDeCoにかかる手数料は金融機関によって異なることです。AさんがiDeCoの説明を聞いた金融機関は比較的手数料が高かったのかもしれません。手数料は以下の通りです。2019年10月より消費税が10%になり手数料も変更となっています。

口座開設(初回のみ):2,829円〜口座管理(積立時):171円〜口座管理(運用時):66円〜給付(1回あたり):440円〜

※金融機関により加入時や毎月の口座管理等にかかる手数料は異なります

Aさんが53歳から60歳までの7年間、毎月掛け金を拠出した場合にかかる手数料は最低で1万7,193円(2,829円+171円×84ヶ月<7年>)です。なお、Aさんの場合、60歳以降にも手数料がかかります。というのも50歳以降にiDeCoを始める人は60歳時点での加入期間が10年未満となります。そのため、老齢給付として受け取るには所定の年齢まで待機する必要が出てきます。

待機期間にも運用は継続することになるので口座管理手数料がかかるのです。この手数料は月あたり最低66円からで金融機関によって異なります。Aさんの加入期間は7年になるので62歳から受給可能です。2年間で支払う手数料は最低1,584円(66円×24ヶ月)、さらに給付の都度、最低440円の手数料がかかります。

表:老齢給付金の受け取り開始可能年齢

※通算加入者等期間:個人型/企業型の確定拠出年金における加入者運用指図者(掛け金を拠出せず運用だけを行う)の期間の合算

手数料を引いても約28万円の税金軽減に

Aさんが62歳に一括で給付を受けた場合、手数料総額は最低1万9,217円ということで、91,000円+217,000円から19,217円を引いて、実質の税金軽減額は28万8,783円 になります。つまり元本193万2,000円に税金軽減額を加えると222万783円 の総資産額になるのですから、iDeCoに加入するメリットは十分あると言えるのではないでしょうか。

最後になりますが、iDeCo加入のメリットを大きくするためには手数料の低い金融機関を選ぶことと、軽減された税金は生活費に紛れないように気をつけることです。特に住民税については還付ではなく給与から天引きになります。

翌年6月の給与から軽減された住民税が天引きされるので、手取りが少し増えたと思うくらいで紛れてしまう可能性があります。ですから、税金軽減額についてもしっかりと管理して老後の備えに回すようにしましょう。

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