【大学野球】東北福祉大・大塚監督が17年甲子園V右腕を抜擢した理由 「4、5、6番手の投手で…」

ノーヒットノーランを達成した東北福祉大・綱脇慧【写真:高橋昌江】

2017年・夏の甲子園で全国優勝を果たした花咲徳栄で背番号「10」をつけていた綱脇

 明治神宮大会(11月15日~20日・明治神宮野球場)の出場をかけた「第11回東北地区大学野球代表決定戦」の決勝が27日、仙台市民球場で行われ、東北福祉大(仙台六大学リーグ代表)が仙台大(開催地リーグ第2位)を4-0で下し、4年ぶり26度目の出場を決めた。全国大会出場を決める舞台で、2017年・甲子園優勝右腕・綱脇慧(2年・花咲徳栄)がノーヒットノーランを達成した。

 レフト・柿崎航(4年・鶴岡東)のグラブに打球が収まったことを見届けると、綱脇は両腕を突き上げた。背番号「10」の高校時代は、背番号「1」の清水達也(現中日)へつなぐ「勝利の方程式」がパターン。ゲームセットの瞬間をマウンドで迎えることがなかったが、この日は歓喜の輪の中心にいた。「4年生が主に出ている中、2年生で投げさせていただいて、負けられない」と、ヒットを1本も許さずに勝利を導いた。

 東北3連盟から4校が出場し、明治神宮大会の出場を争った今大会。逆ブロックをリーグ戦で2位だった仙台大が勝ち上がり、リーグ優勝している東北福祉大には1勝のアドバンテージがあった。第1戦を勝てば、そのまま優勝のはずだったが、1-2のサヨナラ負け。第2戦で先発を任されたのが綱脇だった。リーグ戦での登板は、1年春と今春に1試合ずつ。公式戦の経験は少ないが、大塚光二監督は抜てきした理由をこう話した。

「4、5、6番手の投手ではあるんですけど、状態が良くて普段通りのことを一番できるピッチャーは誰なのかと考えたら、綱脇ではないか、と。練習もコツコツやってきている。それから、甲子園で優勝したピッチャーだよね、というのも少しはありました。大舞台でも普段通りのピッチングができるのではないかと」

 負けが許されない、全国大会出場がかかった大一番。大塚監督の期待通り、綱脇は「自分のピッチングをずっと貫いて、とにかく落ち着いてコーナーに投げ分けること。ずっとやってきたことなので、それを変えずにやりました」と冷静だった。ストレートにカーブ、スライダー、ツーシームなどの変化球を織り交ぜ、仙台大打線に的を絞らせない。3回が終わると、まだヒットを打たれていないことに気づいたという。

同級生からは抑えるたびに「ノーヒットノーランだぞー」

 ブルペンで肩を作っていた同級生の左腕・三浦瑞樹(盛岡大付)は、抑えて戻るたびに「ノーヒットノーランだぞー」とわざわざベンチにやってきた。「そういうことを言った次の回って打たれるじゃないですか。言うなよ、と思ったんですけど(笑)。毎回、でかい声で言ってきて」と綱脇。そんなプレッシャーにも負けず、自分のピッチングを続けた。5回に味方の失策で完全試合はなくなり、6回には四球、7回には死球で走者を背負ったものの、一度もスコアボードの「H」ランプを灯さなかった。

「持ち味は全球種をどこにでも投げられること。すべての球種でストライクを取れたことがよかったです」

 人生初のノーヒットノーラン。92球で仙台大を封じ、2015年以来となる明治神宮大会出場に貢献した。

 3年夏の甲子園で優勝したが、同級生には全国からやってきた好投手がそろっていた。1年春のリーグ戦から登板を重ね、三浦や椋木蓮(2年・高川学園)は昨年の大学選手権でも神宮のマウンドに立った。「いつか、あの舞台に立ちたい」と思いながらも、大塚監督らが「今じゃないから」と将来を見据えた声がけをし続けてくれたことで「焦りはなかった」と感謝。「ダメな時もあったんですけど、そこで落ちるのではなく、先を見据えて頑張ろうと思った」と自分のペースで腕を磨いてきた。リーグ戦出場はわずか2試合だが、全国大会の切符がかかった大事な試合でその成果を発揮。大仕事をやってのけた。

 出身は東京。神宮球場までは「チャリで15分」だが、これまでの野球人生でまだプレーしたことがない。「とにかく、力になれるように。少しでもチームの力になれるように頑張りたいです」。偉業達成の喜びもつかの間、気持ちは「投げてみたい」と憧れ続けた神宮のマウンドに向いていた。(高橋昌江 / Masae Takahashi)

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