【世界から】米大学のラクロス部が増加する背景にあるものは

NCAAに所属するロヨラ大とノートルダム大による試合=2012年5月

 米国の大手銀行が以前、こんなコマーシャル(CM)を流していた。

 両親とともに銀行へ向かう少年。自分にはまるで興味が無いことに付き合わされて、何とも退屈そうだ。ところが、窓口で応対した銀行員がラクロスのコーチであることを知り、目を輝かせる。続くシーンでは少年がラクロスの用具を大事そうに抱えている。銀行からの帰りに買ってもらったらしい。さらに、母親がチーム参加費を銀行のアプリを使って振り込む。そして、一言。「支払いは簡単!」

▼ラクロス人口

 米国ではラクロス人口が少しずつ増えている。米スポーツ・アンド・フィットネス産業協会によると、子ども(6歳から12歳まで)のラクロス人口は2008年以降、右肩上がりで現在ではおよそ30万人に達するという。多くの種目が子どもの競技人口維持に苦戦している中、異例とも言える人気を高めているのだ。

 ラクロスとは、先端に網のついたスティックでテニスボールよりやや小さいゴム製のボールを相手ゴールに入れて得点を競う競技。日本では2000年代ごろから、主人公がラクロスをしているという設定のテレビドラマや映画が制作されている。人気アニメ「プリキュア」シリーズでも主人公の一人がラクロス部員という作品がある。用具を扱いながらスピードや迫力を楽しめる集団競技であることが人気の一因といえるだろう。

米国ラクロス協会では多様な人々が参加できるように対策をしている。=同協会ホームページより転載

▼世帯収入10万ドル

 とはいえ、米国内でラクロスをしようと思えば、他の種目に比べてお金がかかる。19年にユタ州立大学と米有力シンクタンクのアスペン研究所が共同で、スポーツをする子どもを持つ約1000人の保護者を対象に費用に関する調査をした。それによると、ラクロスは1人が1シーズンに支出する平均額がおよそ1289ドル(約13万9700円)で、野球やサッカーのおよそ2倍であった。

 米アスペン研究所ではこの調査とは別に、スポーツする子どもの世帯年収についても種目ごとに調べている。ラクロスをしている子どもの世帯年収は10万ドル(約1084万円)以上が56%を占めていた。野球で10万ドル以上の家庭は27%、サッカーでは35%だった。他の集団競技に比べて世帯年収の高い家庭の子どもが多いといえる。ヘルメットなどの防具やスティックの購入が必要なこともあって、他のスポーツに比べるとクラブチームの入会料金がやや高くなっているのが影響しているという。

▼大学経営者の思惑

 米国内の大学でもラクロス部が増えている。大学スポーツの統括組織である全米大学体育協会(NCAA)には1部から3部まであり、特に3部でラクロス部の増加が目立つ。例えば、男子のチーム数は2000年度の123が15年には228と約1・8倍に。競技人口が増えているのだから、大学にラクロス部が増えるのも当然。だが、この急増ぶりの背景には大学経営者の思惑も絡んでいるようだ。

 前述したようにラクロスをやっている子どもの世帯は高収入であることが多い。そこから推測して、幼少期からラクロスを続けている学生の保護者は授業料の支払い能力が高いと踏んでいるのだろう。少し古い記事だが、12年4月4日の「USAトゥデー」電子版は、大学から世帯収入に応じた学資支援を必要とせず、授業料を全額支払える家庭の生徒に入学してもらうための手段のひとつとして、大学ラクロス部を新設していることを報じている。

 これらのことを踏まえると、大手銀行がCMにラクロスを題材としたことが単なる偶然とは思えなくなる。そこには高所得層をターゲットにする狙いがあったのだろう。(米ミシガン州在住ジャーナリスト 谷口輝世子)

北米にはラクロスのプロリーグもある=谷口輝世子撮影

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