『象は静かに座っている』 29歳で命を絶った若手監督が紡ぐ、人生の苦しみと美しさ

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 地方都市に暮らしている男女4人を主人公に234分という昨今の映画では珍しいほどの長尺で描き、ベルリン国際映画祭国際批評家連盟賞、最優秀新人監督賞スペシャル・メンションを獲得した作品。台湾の名匠ホウ・シャオシェンをはじめ、ガス・ヴァン・サントなど名だたる監督たちからその才能を絶賛されたにもかかわらず、本作でデビューしたフー・ボー監督は作品を完成させた直後に命を絶ち、惜しくも本作は彼にとって最高のデビュー作であり、遺作となってしまいました。

 他人を傷つけることでしか生きられない男、あやまって同級生を階段から突き落としてしまった少年、孤独さゆえに年上の教師との肉体関係を持つ少女、そして自分の家族から孤立している老人。

 2300キロ離れた最果ての地・中国北部の満州里にある動物園に一日中、ただ静かに座り続けている一頭の象に心惹かれた4人の男女が、象を見るために歩き出します。近代化に向けて発展し続ける北京や上海という都市部から取り残された地方都市に暮らし、閉鎖された社会の中で自分の運命を諦めがちに受け入れながら日々を過ごす人たち。境遇は違うのに私はその息苦しさや窮屈さに大いに共感して、痛烈な何かを胸に突きつけられました。

 234分というと身構えてしまうかもしれませんが、安心してください。恐ろしく退屈な映画を観ている90分間よりも、ずっとずっと短く感じるはず。監督はベルリン国際映画祭の4カ月前に命を絶ちましたが、彼が生涯をかけて撮った作品は数々の映画祭で絶賛されたことが、どうか天国の監督に届いていますようにと心から願わずにはいられない一作でした。★★★★★(森田真帆)

監督・脚本:フー・ボー

出演:チャン・ユー、ポン・ユーチャン、ワン・ユーウェン

11月2日(土)から全国順次公開

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