社運懸けたヒマワリ、ハロウィーン装飾に 国内外で人気拡大 サカタのタネ

ハロウィーンイベントを彩ったヒマワリ「ビンセント」=横浜市西区みなとみらい

 夏の風物詩「ヒマワリ」の切り花市場に変化が起きている。10月のハロウィーンイベントの装飾に活用されるなど、新たな需要が生まれつつある。火付け役となったのは、種苗大手のサカタのタネ(横浜市都筑区)が開発した「ビンセント」シリーズ。今年10周年を迎えた同シリーズはアジアの新興国でも人気で、さらなる市場拡大が予想される。

 今月上旬。横浜市内で開かれたハロウィーンイベントの会場は、約千本のヒマワリで彩られていた。

 オレンジや黄色など鮮やかなヒマワリに足を止めた女性は「黒と黄色のコントラストがはっきりしていてきれい。これまでは思い付かなかったけれど、ハロウィーン装飾にぴったり」と笑顔を見せた。

 会場を彩ったのは、サカタのタネのオリジナル品種ビンセントだ。2009年に発売した同種は丸い花びら、濃いオレンジ色、斜め上向きに開花するアップフェースが特徴。「切り花として見栄えがする」と人気となり、この10年でヒマワリの切り花市場で約3割のシェア(同社推定)を獲得するヒット商品となった。

 種苗大手の同社だが、1990年代以降、ヒマワリの切り花市場ではヒットに恵まれなかった。同社広報担当の大無田龍一さんは「チャレンジャーとして挑み、生まれた商品。社運が懸かっていた」と振り返る。

◆シェア奪還

 同社はヒマワリの切り花市場の「開拓者」だ。86年、世界で初めて無花粉の切り花用ヒマワリ品種「かがやき」の開発に成功。「花持ちが悪い」「花粉が落ちて周辺を汚す」などの課題を解決したことで一気に需要が増大した。

 当時の人気を示す数字がある。切り花市場の最先端を行くオランダでの切り花取扱量ランキングだ。70年代半ばは81位だったヒマワリだが、かがやきの登場で18位まで順位が上昇。特に米国市場でのヒットが大きく、中南米で生産し、米国で販売するビジネスモデルが出来上がった。

 しかし、90年代に他社が到花日数(発芽から開花までに要する日数)の短い品種を発売するとシェアを奪われた。到花日数70~80日のかがやきに対し、他社品種は約60日。最終的には45日まで短縮された。生産スピードが上がり、小ぶりの花は切り花として重宝され、他社品種はヒマワリ市場の9割を占めた。

 シェア奪還へ-。新たな品種開発の研究は約10年に及んだ。見栄えの良さを大幅に向上させるため、育種中に出てきた「上向きの素材」に着目。それまでのヒマワリは横向きが主だったが、斜め上向きの開花を実現させた。さらに、従来のとがった花びらとは異なり、丸みを帯びた花びらを誕生させた。課題だった到花日数も50日まで短縮することができた。

 市場は敏感に反応した。「アレンジしやすくて、かわいらしい」とウエディングでの需要が増加。「故人がヒマワリが好きだった」と葬儀でも活用されるようになった。花統括部課長の小島洋平さんは「ヒマワリを知らない人はいない。親しみやすさ、見栄えを向上させたことで、もともとの人気をさらに押し上げた」と話す。

 近年、同社の花種子の売り上げは年率5%程度の伸びで堅調に推移。その中でも、ヒマワリは平均で年率約20%と大きな伸びを続けている。

◆通年供給へ

 今年7月。同社は決算説明会で「ヒマワリは花種子ビジネスの原動力」と位置付け、さらなる市場拡大を図るとした。

 その施策の一つが「国内市場の掘り起こし」だ。人気の高まりを受け、3年ほど前からハロウィーン装飾としての利用を提案。夏以外にも消費シーズンをつくり出そうと、生産地、市場、小売業界を巻き込みながら規模を拡大している。

 国外にも目を向ける。一般的に切り花が普及していくためには「経済成長、生活水準の向上、地域の文化との親和性、花による装飾文化の浸透などが重要となってくる」が、中国やベトナムなどはこれらの要素を満たしつつあるという。両国では黄色やオレンジは富を表す色として人気があり、消費の現場で評価されているという。

 同社広報の大無田さんは言う。「サカタのタネが、アジアにおけるヒマワリの切り花市場をけん引している、といっても過言ではない。ゆくゆくは一年を通じて供給できるよう、品種開発に努めていきたい」

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