幸福度世界一の国が目指す社会保障とは   鍵は“全ての人” フィンランド、ペコネン保健相インタビュー

 幸福度ランキング世界一、子育て施策や福祉の充実で知られるフィンランドのアイノ=カイサ・ペコネン社会問題・保健相がこのほど来日し、共同通信のインタビューに応じた。近年、少子高齢化が急速に進み「ヨーロッパの日本」と呼ばれるこの国が、今後、どう社会保障制度を維持するのか、福祉分野の何に力を入れていくのかを聞いた。(聞き手、共同通信=宮川さおり)

―フィンランドが高福祉高負担の道を選んだ背景を教えてほしい。
 「フィンランドの人口は今でも日本の25分の1の約550万人しかいない。第2次世界大戦後、この小さな国が生き残り、発展していくためには〝全員野球〟をする必要があった。そのためには、全ての人に平等に教育、社会福祉サービス、社会保障を受けてもらい、力を発揮してもらう必要があった。男女平等の推進も同じ文脈だ。国のリソース(資源)を全ての人に対して使ってきたし、全ての人がそれぞれの能力に応じて財源を負担してきた」

―6月に発足した現政権の社会保障分野の具体的な施策は。
 「医療、子育て、労働などさまざまある。まず、道半ばにある家庭生活、労働分野の男女平等を推進するための育児休業制度改革だ。フィンランドの育休は、母親のみ対象の『「母親休業』、父親のみの『父親休業』、どちらでも取得できる『親休業』の3種類ある。出産直後に男性が取得する父親休業の取得率は75%だが、日数はまだまだ少ない。親休業の取得も圧倒的に母親の取得率が高い。この父親への割り当てを延長するとともに、父親が職場を離れやすい環境整備を進めたい。父親が家庭にいて子どもの面倒を見ることで、母親の職場復帰を後押しできる。政府だけでなく、雇用主、労働者代表らとも連携していく。時間がかかるが、当事者が力を合わせればできる」

―雇用、労働部門での新たな施策はあるのか。
 「フィンランドの失業率は5・9%(2019年9月)と高い水準で推移している。燃え尽きて、仕事や人生からドロップアウトしている若者も多い。女性、若者、高齢者をはじめ、あらゆる人を労働市場に呼び込むようにする。高齢者には、それぞれの体力、気力に合わせたフレキシブルな労働環境が求められる。若者や女性ら、高齢者以外も育休の充実や時短など、労働条件をさらに柔軟にして、生活の変化に応じて働けるようにしたい」

―虐待や家庭内暴力の対策で、日本をはじめとする多くの国は被害者支援が中心だが、フィンランドは加害者の支援や家族全体の支援にも力を入れていると聞いた。
 「法律で、暴力の被害者のみならず、加害者についてもさまざまな形で支援するよう明記している。施設に入らなくても、在宅でも支援を受けられる。 加害者への支援は、悪循環を絶ち、あらたな被害を予防する。家族全体への支援についても、虐待された子どもを親から引き離すだけではなく、適切に介入しながら、なるべく家族と一緒に暮らす中で支援するほうが子どもにとって良い結果となるはずだ。ずっと施設で生活させるよりコストも削減できる」

―日本では、介護職の待遇の悪さが問題になっている。
 「賃金など、介護職の労働条件はフィンランドでもよくない。軽視されている面も否めない。特に、高齢者介護の分野は危機的状況。政府として、ただちに改善したいと考えている。具体的には、法律に『24時間態勢の介護分野において、スタッフの数は十分でなければならない』という条文を盛り込みたい。待遇を改善することによって、ケアの質とともにスタッフの体力と気力を維持したい」

―フィンランドは、介護分野で人工知能(AI)やロボットの活用に力を入れている。
「もちろんこうした技術は、介護の業務の中で助けにはなるが、やはり人材が一番だ」

 アイノ=カイサ・ペコネン 1979年、フィンランド・リーヒマキ生まれ。精神福祉分野の介護現場を経験した後、リーヒマキ市議会議員などを経て2011年に国会議員に。6月から現職。

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