電車解体ショーで競り落とした品は…

By 大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)

西日本鉄道の5000形(上)と、筑紫車両基地での電車解体ショーの様子=10月20日午後、福岡県筑紫野市

 【汐留鉄道倶楽部】マグロの解体ショーならぬ、「電車解体ショー」という一風変わったイベントが10月20日、西日本鉄道の福岡県筑紫野市にある筑紫車両基地で開かれた。古くなり、廃車となった車両5000形に付いている機器や部品のオークション(競売)を実施し、その場で売る。電車の解体ショーは西鉄で初めてとなり、全国的にも珍しい。鉄道グッズ収集家の端くれとして血が騒ぎ、「子鉄」の息子とともに競りに挑んだ。

 西鉄は「鉄道の日」がある毎年10月に車両基地公開「にしてつ電車まつり」を開いており、今年は電車解体ショーを目玉イベントと位置付けた。昨年は路線バス車両の解体ショーを実施しており、好評だったため電車でも実施することを決めたという。

 解体するのは川崎重工業が1977年に製造し、2019年夏まで天神大牟田線で約42年間活躍してきた5000形の先頭車、5505号車だ。ルールは、司会者が競売を100円から始め、買い手側が声を上げながら100円単位以上で価格を引き上げ、最終的に最も高い価格を示した買い手が落札する。その場で現金で支払い、西鉄の担当者が取り外した部品を購入者が当日持ち帰る。

 「預金を使い果たしてでも競り落とす!」と熱くなっていた息子に、私は2点忠告した。一つは「入札価格がつり上がると熱くなりがちだが、物には適正価格がある。自分の見立ての価格を超えたら、あっさりと断念するように」と注意した。

 もう1点は「競合相手の入札価格からいきなりつり上げて相手を圧倒する手法もあるが、その場合は高値づかみをして『本当はもっと安く買えたのに…』と後悔する恐れがある。競合した場合、相手の価格より100円上げるのにとどめること」と指示した。

 競売開始の号砲が鳴り、参加者が息をのむ中で紹介された最初の品目を聞いて私は肩を落とした。私は「5505」と記された車体外側の車号板のうち1枚を狙っていたが、最初に出品されたのは車号板に加え、形式や定員、製造年月などを記載した製造板、そして検査表の“豪華3点セット”だったのだ。競売の目玉と呼べる商品だけに、価格がつり上がるのは必至だ。

 案の定、価格はみるみるうちに跳ね上がり、私と息子は早々に脱落。「5万円」「5万5千円」、「5万7千円」とデッドヒートが繰り広げられた後に6万円で競り落とされた。

 次に登場したのは、客室内の両端に掲げられた「5505」の車号銘板の2枚セット。価格はどんどん跳ね上がったため私と息子はさじを投げ、5万6千円を経て5万8千円で落札された。落札した大阪府在住の男性は「5000形の車号銘板が欲しかった」と気迫たっぷりに語った。

 その後もテレビショッピングの番組のように、出展商品が次々と紹介された。運転士が乗務する列車の行路表を入れる運転室の「チケット差し」の落札額は1万5千円、電車の車輪を固定させるために置く歯止めと「歯止め使用中」の表示板が5800円、運転士が腰掛ける座席が1万3千円といった具合だ。

 中には「次はケーキセットです」と、まるで喫茶店のケーキとコーヒーのセットメニューのような品目も。これは「計器セット」で、運転席にある速度計や電流計、圧力計などの計器類が五つ並んだ部品だ。司会を担当した西鉄社員は「(西鉄)電車まつりで速度計だけで販売したことはあるが、セットで今まで出したことはない。5個セットなので非常にレアだ」とアピールした甲斐もあり、2万5千円の高値で落札された。

 「このままでは何も買えない」と焦る息子に、「これは面白いんじゃないか」と私が背中を押したのは非常用ドアコックを覆っているステンレス製の箱の2個セットだ。電車内のドア周辺にしつらえており、火災といった非常時に箱の扉を開け、中のハンドルを手前に引けばドアを手動で開けて避難できる。

落札した非常用ドアコックの箱(左)を西鉄5000形の車内で持つ息子(上)、電車解体ショーの会場後方で披露されたクレーンでの5000形のつり上げ=10月20日午後、福岡県

 新しい車両の非常用ドアコックは比較的小さな扉になっている場合が多いが、西鉄5000形の箱は高さ42センチ、幅20センチ、奥行き7・5センチと大きいため車内でも存在感があり、興味を覚えていたのだ。

 競売で「3700円」と声を上げた参加者に続き、息子が「3800円」と叫ぶと会場が一瞬静まりかえった。出品された21品目のうち、最低価格での落札となった。

 2個の箱を手提げ袋に入れて持ち帰る西鉄電車の車内で、落札品の用途を考えてみた。家の部屋の扉に取り付け、取っ手を覆うカバーとして使えば、鉄道趣味に打って付けのインテリアとなりそうだ。

 ただし、難題なのは私が転勤族で、住んでいる福岡市のマンションの一室も借家であるという事情だ。借りている物件だけに、部屋の扉に穴をこじ開けてねじで固定するわけにはいかない。とはいえ、夢のマイホームが建つ日も見通せないままだ。

 かくして2個の箱は私の部屋に置いたまま。だが、普段の電車利用時には開けることが許されない“禁断の箱”を手に入れた今、箱の扉を時折開けるのが密かな楽しみになっている。

 ☆大塚 圭一郎(おおつか・けいいちろう)共同通信社福岡支社編集部次長。誕生が1975年と“2年後輩”の西日本鉄道5000形は古参ながら、花形の特急に運用されることもある頼もしい存在。引退、解体が始まったのは残念ですが、できるだけ長い現役生活を祈っています。

 ※汐留鉄道倶楽部は、鉄道好きの共同通信社の記者、カメラマンが書いたコラム、エッセーです。

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