「病気や障害 苦しむ人支えたい」 車いすなど寄贈12年 サム不動産の松尾社長 脳梗塞に倒れた自身重ね

井口院長(右)に電子血圧計を贈呈する松尾社長=佐世保市、佐世保共済病院

 病気や障害で苦しむ人を支えたい-。長崎県佐世保市三浦町のサム不動産の松尾功社長(56)は12年にわたり、病院や老人ホームに対し車いすなどの寄贈を続けている。自らも34歳のときに脳梗塞で倒れ、今も後遺症に苦しむ。「自分と同じような境遇にいる人のために、命ある限り続けたい」と思いを明かす。

 10月29日午前。松尾社長は佐世保共済病院(島地町)を訪れ、井口東郎院長に電子血圧計5台を手渡した。「地域医療に役立ててほしい」と伝えると、井口院長は「大切に使わせていただく」と感謝を口にした。

 1997年11月。出社後、後頭部に痛みを感じ、病院に歩いて向かった。玄関前に着いたとたん、意識を失って倒れた。別の病院に救急搬送。8時間に及ぶ手術で一命を取り留めたものの、意識不明の状態が続いた。

 約2カ月たって意識は戻ったが、体の状態を知ってがくぜんとした。後遺症で右半身はまひし、記憶力は著しく低下していた。「仕事はもうできないかもしれない」-。自殺も頭をよぎった。それでも回復を祈る家族の姿を見て思いとどまった。懸命なリハビリの末、1998年4月に退院した。

 まひや記憶障害は、完治しなかった。散歩に出掛けると、帰り道を忘れてしまうこともあった。半年後に職場復帰したが、取引先との約束を忘れ、迷惑を掛けることもしばしば。手帳に詳しいスケジュールを書くことが習慣になった。

 倒れる前には経験したことのない苦難に直面する日々。次第に「生きていること自体が奇跡。自分と同じように苦しんでいる人の力になりたい」という思いが膨らんでいった。2008年から病院などへ寄贈を始め、これまでに車いすやストレッチャー、電子血圧計を贈呈。車いすは合わせて30台以上に上る。

 町で車いすの人を見かけると、生きる希望を失いかけたかつての自分を思い出し、こう言葉を掛けるという。

 「頑張って生きていきましょうね」

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