【雪山2年生特集】冬山の経験値を高めよう! おすすめステップアップルート5選 昨シーズンに雪山デビューは果たしたけれど、2年目の今年はどこの山を登ろう…。同じ山に登るのはもったいないから、できれば森林限界を越えて、景色のいい雪山を楽しみたい! そんな気持ちは分かりますが、焦りは禁物。無理せずステップアップできる、雪山2年生にオススメのルートがあるんです。今回は山岳ガイドの木元康晴さんに、山の選び方と目指すべきオススメの5ルートを教えて頂きました!

雪山登山2年目は、どの山に登ったらいい?

昨シーズン、雪山デビューを果たした登山者たち。2年目となる今年は、「もうちょっとレベルアップしたい! 」 と考えている人もいるのではないでしょうか。とはいえ、「次はどこの山に登ったらいいんだろう」「装備や技術がまだまだ不安」といった声も。

そこで今回は、登山ガイドとして活躍している木元康晴さんに、雪山2年生の山の選び方やステップアップの秘訣、オススメのルートを聞いてみました!

教えてくれた人|登山ガイド・木元康晴さん

日本山岳ガイド協会認定、登山ガイドステージⅢ。関東近郊の山から日本アルプスまで、全国各地の山を案内する少人数制のガイドプランに人気がある。登山ライターとしても活躍しており、『山岳遭難防止術』(山と渓谷社)など著書も多数。

登山ガイド 木元康晴 ウェブサイト

雪山2年生がチェックするべき3つのポイント

ライター
吉澤

入笠山や北横岳、黒斑山など標高差の少ない山で雪山デビューした登山者の中には、2年目になると森林限界を越えた山に挑戦したいと思う人が多いようです。山選びやステップアップの秘訣はありますか?

木元ガイド

より本格的な雪山登山に挑戦したいということですね。そうすると、樹林に守られた山とは異なり、ピッケルとアイゼンを駆使して、自分の力で自分の身を護るノウハウが必要になります。

【1】必要装備|雪山シーズン前に再チェック

木元ガイド

1年目に基本装備を揃えていると思いますが、まずは必要となる専用装備を再度チェックしましょう。不足の確認だけでなく、装備の状態もしっかり見てくださいね。

・10本歯以上のアイゼン・ピッケル
・雪山用の登山靴
・アウターシェル&パンツ
・防寒着
・防寒手袋
・雪目防止用のサングラス
・保温ボトル

その他に、一般登山で必要なバックパックや行動食、バーナーやクッカー、エマージェンシーキットなどを準備します。

木元ガイド

比較的天候が落ち着く残雪期と呼ばれる3〜4月になると、ピッケルを持たず、3シーズン用の防水登山靴に簡易アイゼンを装着して歩いている人を稀に見かけることがあります。装備を疎かにすることは危険に繋がるので絶対にやめましょう。

雪山入門|最初に準備すべき「冬山装備」を基本から解説!
今年こそ冬山登山を始めてみたい! でも、まずどんな装備を揃えればいいのかな? そもそもこの装備は何のために買わなきゃいけないんだろう?...

【2】必須技術|講習会に参加して実践しながら習得

ライター
吉澤

森林限界を越える雪山で必要な技術には、どんなものがあるでしょうか?

木元ガイド

必須技術は、主に下記の6つが挙げられます。

■歩行技術(アイゼンを履かないで行う登り下り、キックステップなど)
■ピッケルワーク
(滑落停止、耐風姿勢など)
■アイゼンワーク
(フラットフッティングによる登り下り及びトラバース、前爪を使った登下降)
■雪崩対策
(雪崩地形の理解、ビーコン操作、アバランチギアによる掘り出し技術)
■ナビゲーション
(地形図、コンパス、GPSなどを駆使した現在地把握と進路確認)
■ルートファインディング
(雪庇など、地形から予測して危険箇所を回避する)

木元ガイド

まずは講習会などに参加してノウハウを教わり、徐々に実践経験を積みながら身に付けていくといいでしょう。

モンベル|雪山登山技術実践講習会Mt.石井スポーツ|雪山入門講座好日山荘|雪山講座

【3】山選び|「無理をしないで山頂を往復できる」ルート

ライター
吉澤

専門的な技術が必要になると、急にレベルが高くなる気がしますね…。どんな山を選ぶのがいいでしょうか?

木元ガイド

専門的な技術は誰もがすぐに身に付けられるものではないので、無理は禁物。まずはピッケルとアイゼンワーク、防寒対策に集中できる山を選ぶのがいいでしょう。

ライター
吉澤

例えばどんなルートですか?

木元ガイド

オススメは往路と復路が同じピストンコースを選ぶことです。雪山でのナビゲーションやルートファインディングに慣れていないうちに下山が初見のコースを選ぶと、悪天候時にルートミスをする危険性があります。

ライター
吉澤

自分が歩いたトレースを辿れば、比較的迷わずに下山することができますね。

木元ガイド

それと、森林限界以上での行動がそれほど長くならないルートがオススメです。装備や技術のチェックを行いながら、トライ&エラーの気持ちでステップアップを目指せます。

ライター
吉澤

少しずつ森林限界以上の標高に慣れていく、といった感じでしょうか。それなら、雪山登山2年生もチャレンジしやすいですね!

木元ガイド

雪山でのコースタイムは、積雪量などその時々のルート状況によって大きく変わります。トレースがあれば無雪期のコースタイムよりも早く楽に登ることができますが、トレースがないと圧倒的に時間を要する場合がほどんどです。余裕を持った登山計画を立てましょう。

登山ガイドがオススメする『ステップアップルート』5選

雪山2年生のステップアップにオススメのルートの中から、今回は首都圏からアクセスしやすい5つを紹介していただきました。下山は全て往路を戻ります。

危険個所やワンポイントアドバイスも紹介しているので、今シーズンの雪山登山計画の参考にしてみてください。

北八ヶ岳/東天狗岳(日帰り、または小屋泊2日)

雪山の入門コースに必ず選ばれるほど人気の高い山です。樹林のなかの安全な道で徐々に体を慣らし、中山峠から森林限界を越えて山頂を目指します。ピークでの360°の展望も見事です。

  • 標高: 2,640m
  • 距離
    (往復): 8.6km
  • 累積標高(上り): 818m
  • 累積標高(下り): 818m

ルート:渋ノ湯〜黒百合ヒュッテ〜中山峠〜東天狗岳
危険箇所:東天狗手前の天狗ノ鼻(岩場に慣れていないと転倒、滑落の可能性あり)

木元ガイド

冬にも登りやすく人気が高い山ですが、気温がとても低いです。特に1~2月中旬頃はかなりの寒さになるので、防寒対策を念入りに行いましょう。

中山峠の先で森林限界となり、そこから先は風に注意が必要です。日帰りも可能ですが、黒百合ヒュッテは快適な山小屋なので、泊まるプランもオススメ。ただし週末は大混雑するので前もって予約しておきましょう。

谷川連峰/谷川岳(日帰り)

電車とバスでアクセスでき、さらに谷川岳ロープウェイで約1,300mまで一気に標高を上げる手軽さが人気の秘密。山頂までは登り基調でアップダウンも少ないので、雪山入門者でも挑戦しやすいです。

  • 標高: 1,977m
  • 距離(往復): 6.6km
  • 累積標高(上り): 738m
  • 累積標高(下り): 714m

ルート:谷川ロープウェイ天神平駅〜肩の広場〜トマの耳〜オキの耳
危険箇所:トマの耳~オキの耳(雪庇)、肩の広場(悪天候時にルートミスが多い)

木元ガイド

通常登りやすい時期は、12月と3月~4月。天気が良ければトレースもあって快適です。1~2月は悪天候の吹雪になることが多いのでオススメしません。

天候が急変しやすく、ルートを見失いがちなので、GPSアプリに加えて、地図とコンパスも必ず準備しましょう。

南アルプス/観音岳(小屋泊2日)

南アルプスにおいて人気の高い鳳凰三山の一座。森林限界を越えた先にある山頂からは、日本大二位の高峰北岳や標高3,033mの仙丈ヶ岳など、3,000m級の山々の迫力ある容姿を確認できます。

  • 標高: 2,841m
  • 距離(往復): 17.3km
  • 累積標高(上り): 1356m
  • 累積標高(下り): 1367m

ルート:夜叉神峠〜杖付峠〜南御室小屋〜薬師岳小屋(泊)〜薬師岳〜観音岳
危険箇所:際立った危険場所は特になし

木元ガイド

薬師岳小屋が営業している、年末年始とGWが適期です。雪は比較的少なく、南アルプスの入門コースとされていますが、稜線は風が強いため雪山の厳しさがあります。

プラス2時間半くらいで地蔵岳へも行けますが、オベリスクは登れないので、鳳凰三山最高峰の観音岳で引き返すのが一般的です。

北アルプス/唐松岳(前夜泊日帰り)

長野県側の麓にある八方駅からリフトとゴンドラを乗り継いで登山口までアクセス可能。宿泊予定の八方池山荘は通年営業の山小屋です。山頂からは剱岳の雄姿を眺めることができます。

  • 標高: 2,696m
  • 距離(往復): 9.8km
  • 累積標高(上り): 919m
  • 累積標高(下り): 919m

ルート:八方池山荘(泊)~丸山ケルン~唐松岳頂上山荘~唐松岳
危険箇所:八方尾根全体(悪天候時は烈風、道迷いの可能性も大)、唐松岳手前(滑落注意)

木元ガイド

通常登りやすいのは、12月と3月~5月。天気が良いと快適ですが、北アルプスの中でも日本海に近いため、1~2月に西高東低の気圧配置であれば、雪山上級者でも手が出ないほど厳しい登山を強いられます。

下山時にルートを見失いがちなので、GPSアプリに加えて、地図とコンパスも必ず用意しましょう。

北アルプス/西穂独標(小屋泊2日)

北アルプスで西穂高岳まで向かう途中にあるピーク「西穂独標」。山頂からは、西穂高岳の山頂を小さく確認できる程度ですが、西側には笠ヶ岳、東面には奥穂高岳や前穂高岳の雪を纏った姿を望むことができます。

  • 標高: 2,696m
  • 距離(往復): 6.1km
  • 累積標高(上り): 563m
  • 累積標高(下り): 572m

ルート:新穂高ロープウェイ西穂高口駅~西穂山荘(泊)~丸山~西穂独標
危険箇所:西穂高口の先の樹林帯(道迷い)、丸山の先の急斜面(滑落)、独標直下の岩場(転落)

木元ガイド

登山適期は、年末年始と3月~5月。ロープウェイが使えるのでアクセスは楽ですが、穂高連峰の稜線の入口となる場所なので、悪天候時は厳しくなります。

距離は短いですが岩場もあるので、三点支持で確実に登り下りする技術は必須。独標より先の西穂高岳までは、十分な経験や体力、装備が必要な上級者向けルートなので、独標までにしておきましょう。

今回のルートを全て登れたら、次のレベルにステップアップ!

雪山2年生向けのルートとはいえ、森林限界以上の稜線は本格的な雪山登山になります。装備の準備や天候判断を怠らず、安全を考慮して経験者と共に挑戦するようにしましょう。

今回紹介したルートを全て登った暁には、ピッケル・アイゼンワークがしっかり身に付き、雪山登山の経験値が大幅にアップしているはず。楽しみながらレベルアップを目指しましょう!

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