クラスのマドンナに告白して、いい返事をもらった時以上に舞い上がっていた
時代の寵児ともてはやされ、その一挙手一投足が世間の注目を集めている。抜群の容姿を誇り、その言葉は、まるで魔術が込められているかのように魅力的で人々を惹きつける。彼女、星野奏は誰でも知っている有名IT企業の社長秘書である。
数年前、たまたまTVに出演したことをきっかけに、瞬く間に人気を獲得し、彼女のSNSにはフォロワーが大挙することになった。所属企業ではなく、「美人秘書の星野奏を取材をしたい」というマスコミ関係者も多く、取材希望者が行列をなして待っているといわれる。
私のような一介のフリーカメラマンが取材を申し込んでも、まず許可をもらえることはないだろうと思いつつも、数ヶ月前に企業サイトから取材申請を出していた。すると、奇跡的に同社から「取材OK」という返信がきたのである。その時の私は、高校2年のホワイトデーにクラスのマドンナに告白して、いい返事をもらった時のように、いや、それ以上に舞い上がっていたかもしれない。
ところが当日、先方から指定された場所というのは、そのIT企業ではなかった。都内でも人がまばらな場所で、星野奏は巨大なSUVの前に立っていた。ひととおりの挨拶をした後、彼女と名刺を交換すると、彼女はおもむろに口を開いた。
奏:「今日は、インタビュー取材と同時に、お写真も撮っていただけると伺って参りました」
私:「ええ、私、最近は原稿も書きますが、本業はカメラのほうなんですよ」
奏:「嬉しいです。プロのカメラマンさんに1対1で写真を撮ってもらえる機会なんてめったにないことですから」
私:「しかし、今日はずいぶん大きなクルマで現れましたね」
奏:「これは弊社社長の愛車なんです。私が運転する機会も多いので、もうこの大きさにも慣れました(笑)」
大きさはもちろんだが、やはりこのクルマのハイライトは、ラグジュアリー感である。BMWのX5といえば、「プレミアムSUV」の元祖のような存在だ。このクルマが存在したからこそ、ポルシェのカイエンをはじめ、メルセデス、アウディなどからも数多くのプレミアムSUVが誕生するようになり、いまの世界的なSUVブームがあるのだ。
今の時代、女性だってこういうクルマを乗りこなせなくてはいけない
私:「いや~、やっぱり大きなクルマだな」
思わず声が出てしまった。X5に乗った瞬間の、私の素直な感想である。
それもそのはず、この新型X5は、従来モデルから全長、全幅とも拡大されている。ホイールベースも長くなったことで、当然、室内も広くなってはいるが、なによりこの全幅の広さである。2003mmというのは、日頃、日本車ばかり乗っている私にとって驚異的な数値で、“自分だったら決して運転したくない”部類のクルマである。まったく恐れ入った。
奏:「社長からいつも言われているんです。今の時代、女性だってこういうクルマを乗りこなせなくてはいけないと」
私:「ジェンダーレス社会ってやつですね」
奏:「けど、いつもこんなクルマと格闘してたら、なんだか私まで男っぽくなっちゃいますよね」
私:「仕事ができるっていう意味では、すでに男を越えてると思いますよ」
奏:「言ってくれますね」
だが私は、実は自分もBMWオーナーだと、言いそびれていた。まあ、オーナーといっても、私の愛車なんて何十年も前の、よく言えば“クラシック”な部類の2ドア・セダンだから、とても同じ土俵に立っているとは思わない。ま、そういうこともあり、私はBMWにはそれなりに詳しい。
この新型X5は、キドニーグリルが大型化するなど、新世代BMWらしい顔つきに進化した。ヘッドライト上部には、まるで眉毛のような装飾もつけられ、これは日本人女性のキリリとしたたくましい眉毛にも通じるものがある。全体的なスタイリングはSUVらしく筋肉質で、パッと見ではボディの大きさを感じさせない。一方でインテリアは知的な雰囲気だ。メーターパネル、コントロールディスプレイと、大型のフルデジタルパネルが2枚並び、このクルマが現代技術の塊であることをアピールしている。
私:「けど、よく考えてみると、星野さんて、X5に似ているかもしれません」
奏:「ええ、ついに似てきちゃいました? いつも力強く働き過ぎですよねー。もっと女子力磨かなきゃ!」
つぶやくように、呆れたように、そう答える彼女。
いや、そうではない。魅力的という意味なのだ。まず、整った鼻筋、形の良い唇、現代的で印象的な顔の美人である。背は高いが、動作がしっかりしていて、服の上から見るかぎり余分な脂肪もついてなさそう。体幹も強そうだ。もちろん人となりはインテリジェンスに溢れていて魅力的。形の良い唇から発せられる言葉の数々からも、知性と品格がにじみ出ている。ここの社長が彼女にX5を運転させるというのも、なんだかすこし分かる気がする。
どうして彼女にこれだけ執着するのか、その時やっと気がついた
傍らデートのような、どこを目指すともなく街中を流す。
道中、景色のいい街角で彼女のスナップを撮ってみることにした。こうやってファインダーごしに眺めていると、彼女の所作はまるで本物のモデルである。ついでだからX5の助手席や後部座席に座ってみてもらうと、私が何かを言うまでもなく、プロ顔負けのポージングを披露してくれた。
私:「あれ、もしかして、昔モデルとかやってました?」
奏:「……」
彼女は、私の突然の質問に対して黙りこみ。それから口を開こうとしない。ひと呼吸置き、様子を伺う。なにか聞いてはいけないことに触れてしまったのだろうか。まいったな。迷うが、さらに言葉を続ける。
私:「いや、ヘタなモデルさんなんかよりずっと撮られ慣れてる感じだし、私自身、なんだか初めて撮る気がしないんですよね」
奏:「そ、それは……」
私:「あれ、もしかして、私、あなたと過去に会ったことありましたっけ?」
奏:「やっぱり覚えてないですか、私のこと。そうですよね、10年以上前に、ある雑誌の読者モデルのオーディションで撮ってもらいました」
どうして私が彼女にこれだけ執着するのか、是が非でも彼女を取材したかったのか、その時やっと気がついた。なんと彼女は、当時私が担当していた某雑誌の新人発掘オーディションの応募者だったのだ。私が参加者である10代の女の子たち全員の写真を撮り、でき上がった写真を見て、編集部が合否を決める。当時、私は彼女を推したつもりだったが、結果的に別の娘が合格していた……。
彼女が形のよい唇を動かしながら、話を続ける。
奏:「あの時撮ってもらった写真、いまでも大切に持っているんですよ。本当に綺麗に撮ってもらえて嬉しかったんです」
私:「そんな、大それた写真は撮ってません。たしかにあなたは輝いてましたけど、それは私が撮ったからじゃない。あなた自身の魅力です」
奏:「でも、私にとってあの時の体験は一生忘れられないものになりました。だから今回、あなたの取材を受けさせてもらったんです」
彼女に熱のこもった視線を向けられると、なんだか心を見透かされているようで、動揺してしまう。
しかしなるほど、私は深層心理で彼女のことをまた撮りたいと思っていたし、彼女は私に撮ってもらいたいと思っていたわけだ。さしずめ現代版シンデレラのような話である。となると、このクリスタルガラスのシフトノブは、ガラスの靴か。
などと、くだらないことを考えていたら、いつの間にか、星野奏はこちらの様子をうかがうように見ていた。そして、長く美しい栗色の髪の毛をかきあげるなり、こんな言葉を口にした。
「私を見つけてくれてありがとう」
[Text:安藤 修也/Photo:小林 岳夫/Model:星野 奏]
Bonus track
星野 奏(Kanade Hoshino)
1991年10月30日生まれ(28歳) 血液型:O型
出身地:神奈川県
SUPER GT2019 T-DASHエンジェル
SUPER GT2018 ARTA GALS
SUPER GT2017 R`QS triplets
NCXX RACING RACE QUEEN2018