東京モーターショー参戦、BMW アルピナが仕上げたスポーツ・ディーゼルの絶品味わい

ニコルレーシングジャパンが日本で展開する「BMWアルピナ」。今回の東京モーターショーでは多くの輸入車メーカーが出展を見合わせる中、しっかりと今年もブースを設けてワールド・プレミア1台、ジャパン・プレミア1台などのニューモデルを展開し、相変わらず存在感を示していました。そんなアルピナの中から今回テストしたのはスポーツ・ディーゼルを搭載したSUVのXD3です。


ハンドメイドの緻密さが生み出す一級品

今回の東京モーターショーにも「BMWアルピナ(以下、アルピナ)」は出展し、数少ない輸入車ブランドのひとつとして存在感を示していました。これでアルピナは東京モーターショーに1987年の初出展以来、17回連続で一度も欠席することなく、皆勤となっています。この少数生産のブランドを日本に広めたのが、現在も総代理店を務めている「ニコルオートモビルズ(以下、ニコル)」です。

ではなぜ、アルピナは日本を大切にしてくれるのでしょうか? アルピナがドイツのメーカーである事も含め、あまりご存じない方も多いかもしれませんので、簡単に説明します。

まずはアルピナですが1965年にドイツで設立されたメーカーです。当初はレーシング・チューナーとして活動していましたが、後にBMWのクルマをベースにした高度なエンジニアリングとハイ・エンド・モデルの製造を行うようになりました。そのクルマ作りはまさに手作りの丁寧さと高い技術力によってアルピナ風味が加えられていきます。もちろん大量生産は出来ませんから、毎年1,200~1,700台あまりが製造可能な範囲と言えます。そして送り出される車両は、ベースとなったBMWからは車体番号が消され、アルピナ固有の車体番号が新たに刻印されるのです。

もちろんそれは公式に登録された自動車メーカーで製造された製品であることを証明している事になります。そして少々珍しいのですがBMW社との関係はすこぶる良好と聞きます。

両社で連携した物流システムを作り上げ、アルピナ車の多くはBMWのネットワークを通じても販売されるのです。このBMW社とのパートナーシップは、自動車業界でも独特の形態と言われています。

アルピナXD3ビターボ。派手さはありませんがホイールやエアロパーツ類で、並のBMWではない雰囲気が漂います。

アルピナ最良のライバルはBMW M

そんなアルピナの日本導入1号車は「B7ビターボ」というクルマで、1979年に上陸しました。もちろんこの時のインポーターはニコルですが、以来40年、地道に少量生産の上質なアルピナを販売し続けて来たわけです。

今回のモーターショーでニコルのブースには、初導入から40周年を迎えられたことに対する感謝のメッセージも掲げられていました。これまでに約5,300台が輸入されてきましたが、単純に年割りにすると年間130台少々ですから多いとは感じません。

しかし、年間で多くても1,700台ほどの少量生産モデルの約20%が、現在では日本で販売されているのです。当然、アルピナは日本の市場を大切にすることになります。また「品質に厳しい日本のユーザーの意見は重要です」ともニコル側は言っているのです。

アルピナは大量生産が効かないハンドメイド。精密さと上質な仕上げにこだわるがゆえに、その生産台数は自然と少なくなりますから、BMWといった大プロダクトから登場するモデルとは、少しばかり意味が違って来るわけです。ではオリジナルのBMWとはどう違うかが気になります。

バブル経済華やかなりし頃、ノーマルのBMWについてですが、どこかで耳にしたことがあるかもしれませんが“六本木のカローラ”などと呼ばれた時代がありました。珍しくもなんともないとまで言われていたのです。そんな中でアルピナは、見かけることも少ないと言った希少性や、少々お高いお値段のおかげでオリジナルよりちょっぴり上を行く高級品としてのポジションがありましたし、いまもそれは変わっていません。

当時の女子たちは「アルピナなら乗ってもいいわ」と言っていたという話もよく耳にしました。アルピナのこうしたブランド力だけでなく、もちろんパフォーマンスも魅力的です。力まかせの“速ければいいだろう的”なカスタムとは、チョット違った品のある佇まいは、クルマに興味を持つ人にとって特別な存在としてすっかり定着しています。そして現在、オリジナルのBMWにはMシリーズという高性能モデルがしっかりとあって、相当な人気を得ているのですが、パフォーマンス面ではアルピナの最良のライバルとして比較対象の筆頭に来ると言えます。

このBMW Mシリーズと価格以外に両車の明確なる差とは何なのでしょうか? 早速、最新のスポーツ・ディーゼル、アルピナのXD3ビターボの試乗で答えを探してみましょう。

操作系やメーターなどレイアウトなどはBMWと同じだが、ステアリングの中央にアルピナのエンブレムが誇らしげに着く。

1千万円のオーバーでも納得の仕上がり!?

アルピナXD3ビターボ。ビターボ、つまり大小2基のシーケンシャルツインターボを装備する3.0リットル直6ディーゼルターボ・エンジンは、最高出力が245kW(333ps)で最大トルクは700Nmを発生します。実はこの試乗の前にライバルと言われるBMW X3のMシリーズ、「M40d」にも乗っているのですが、そちらの強力なディーゼルエンジンは最高出力が240kW(326ps)、最大トルクが680Nmとなっています。スペック的にはアルピナXD3ビターボの方が少しだけパワフルです。

ところが実際に走ってみるとBMW M40dよりもパワフルであるはずのアルピナXD3ビターボの方が、幾分パワーの出方がマイルドで紳士的で控えめな印象を受けました。

その傾向は特に高速走行で強く現れます。ガチガチのスポーツモデルという感じもなく、ゴツゴツとした堅さをあまり感じる事もほとんど無く、サスペンションのたっぷりとしたストローク感を体感しながら、なんとも平和なフラット感を伴って、アルピナはゆったりと走ります。

ところがひとたび追い越し車線に入り、そこからアクセルを一気に踏み込めば何とも強烈な、怒濤のごとくの加速を見せてくれます。カタログデータの0~100km/hを4.9秒、0~200km/hを21.9秒と言う加速力は決して伊達ではないと痛感する瞬間です。もちろん最高速254km/hという俊足ぶりを一般道で試すことは出来ませんが、車重2トンオーバーのクルマの走りとは思えないほど、軽々としていることはよく分かります。

この軽々とした走りはコーナリングでも楽しめます。アイポイントの高いSUVではありますが、左右に傾くロールがちょうどいい具合に制御されているため、大きく左右に揺れることなく、気持ちよくワインディングを走り抜けます。もちろん四六時中、スポーティな走りをすることなどないでしょうが、イザとなればここまで出来るという、ドライバーの心のゆとりになる事は確実です。

これで11,150,000円也! 支払い能力さえあれば、その価値は十分にあると思います。

エンジンにも厳選されたパーツを組み込みアルピナならではの仕上げとなる。

一方のBMW Mは?

さてここでBMW M40dですが価格は8,960,000円と、アルピナよりもやはりけっこうリーズナブルです。M40dの走りですが高速クルージングをゆったりと流しているときにはなんとも平和で、ゆとりあるクルージングを楽しめ、ワインディングではアルピナ以上に踏ん張り感の効いた安定ある走りで、ボディが小さく感じるほど軽快でした。

その走りの全体的な印象ですが、アルピナ以上にスポーツモデルらしく少しばかりワイルドで硬質な感じがありました。同時に感じたのは、どんな状況でもドライバーに対して“速く走ろうよ”という誘惑が顔を見せるのがM40dの走りの感想です。

この味わいの差はBMWとアルピナとの差なのでしょうか。どっちがいいとかではなく“どっちが好み?”というレベルの話になるのかなぁ、と言う感じです。要するに強烈な加速やシャープなハンドリング、そして卓越したドライビング・ダイナミクスは、両車とも持ち合わせていますが、その表現方法が少し違うということになります。

過酷とも言えるサーキットで鍛え上げられたBMWのレーシングテクノロジーを、ふんだんに投入したBMW Mモデル。

一方のアルピナといえば、Mと同等のパフォーマンスを「より分かりやすく、より扱いやすく快適に、より親しみが持てるように調教」したクルマと言えるようです。高性能をごく普通に使いやすく、かつさりげなく“知る人ぞ知る、というブランド力”を発揮し、価格面でも一歩上行くのがスペシャルなアルピナです。

試乗を終えてアルピナが、ブランドを大切にする女性ユーザーにも人気があることを改めて納得できました。

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