第10回 「どのレジが一番早いのか見極める」

夕方の混雑したスーパーマーケット。

レジは複数台あるが、どこもお客さんが列を作っている。

この時、私が考えることはたったひとつだ。どのレジが一番早いか、である。

状況を瞬時に見極め、一番早いと思われるレジに並ぶ。迷っている暇はない。モタモタしていると並んでいる人の数が増えてしまう。わずか数秒の勝負だ。

レジを決め、並ぶ。もう替えることはできない。選んだレジと心中するしかない。

見事的中したなら歓喜する。帰り道に歌を口ずさんでもおかしくないくらいに機嫌が良くなる。

もしも外れた場合にはただただ悔やむことになる。帰り道は無言だ。

では、私はどのような基準でレジを選んでいるのか。

まずは並ぶ列についてのチェック項目をまとめてみた。

①カゴに大量の商品が入っている人が並んでいないか?

②カートの下の段にも商品が入ったカゴがある人は並んでいないか?

③カートの下の段に水や缶ビールの箱が積まれていないか?

④人目を憚らずいちゃつく中年カップルは並んでいないか?

⑤イヤフォンを外さない若者はいないか?

⑥ずっと電話をして、まったく切る気配がない人はいないか?

⑦傷んだ果物をカゴに入れている人はいないか?

⑧買い忘れた商品を取りに行っている人はいないか?

⑨(セミセルフレジの場合)会計待ちの渋滞が起きていないか?

以上のチェックを瞬時に行なわなければならない。

いくつか解説していくと、①は基本中の基本であり、商品が少ないほうが早くレジが終わるのは当たり前である。ただし、一見商品が山盛りに見えるものの、実は嵩張るものが多いだけということがある。たとえばトイレットペーパーがカゴの半分以上のスペースを占めていて、残りのスペースは白菜のみ、なんてこともある。この場合は商品が少ないと判断すべきだ。

④は、いちゃつきに夢中になり、酔っていることも多く、進みが遅くなってしまいがちになる。独自の調査では若者カップルよりも中年カップルのほうが遅い。

⑤は、店員が何か質問しても気づかず、何度か話しかけてやっと気づいてイヤフォンを外す。そこで時間のロスが生まれる。

⑥は財布からお金を取り出す作業を片手で行なうことになり、通常より遅くなる。

⑦は店員が商品の交換に行ってしまう場合があり、これまたロスが生じる。

⑧はたとえばサランラップを買うのを忘れていた人が、レジの途中でサランラップを取りに行ってしまうことがたまにあり、それはかなりの時間のロスとなる。カゴの持ち主が見当たらない場合、その列は避けたほうが無難だ。

⑨はすべて自分で行なうフルセルフレジではなく、商品のスキャンは店員が行なうが支払いは自分で行なうセミセルフレジの場合、ここで渋滞が起きてしまうとレジがストップしてしまう。

つまり並んでいる人全員が、購入する商品が少なく、レジにのみ集中している状態が理想ではある。

しかしこれで安心してはいけない。なぜなら列の進み具合というものは、レジの店員も係わってくるものだからだ。

よって以下の項目が追加される。

⑩研修中ではないか?

⑪スピードがあるように見えて、実はバーコードを一回で読み取れていない人ではないか?

⑫過剰なほどの丁寧な人ではないか?

⑬知り合いが多そうな人ではないか?

⑩はどうしても遅くなってしまう。しかしこれは仕方ないことである。スラムダンクで桜木のミスを最初から計算に入れていた流川のように、研修中の店員のスピードが遅いことは最初から計算に入れるべきだ。いつか誰よりもスピーディなレジになるかもしれない。

一方⑪は、一見早そうで実はそうではないので注意が必要だ。結局同じ商品を2、3回スキャンし直すので時間が余計にかかるのである。

そして⑫。丁寧であることに越したことはない。魚のパックを丁寧にビニール袋に入れてくれるなど、時間がかかってしまうことは否めない。通常なら感謝するところなのだが、競技として並び、スピードを競っている状態の時は避けてしまう。

⑬は知り合いと会話してしまう場合があるので注意すべきである。

こうして総合的に判断し、理想の列に並んでも遅くなってしまうことがある。イレギュラーなことが起こるからだ。

・子どもが商品を追加してきて、それを「返してきなさい」と親が言う

・レジが終わってから財布を取り出す人など、支払う準備が遅めの人

・小銭を出したはいいが足りなくて結局お札にする人

・お釣りをその場で丁寧にしまう人

・その場でちゃんと値引きされたか確認する人

・レジの人が商品を把握していない(例:この柿は、安売りの柿なのか、そうではない柿なのか)

・レシート交換が始まる、レシートの交換に手間取る

・レジの交代がある

こういったことが起こった場合、時間が加算されてしまうのだ。

そのため、なかなか一番早いレジを当てるのは難しいことになる。しかしそこがまた面白く、懲りずに挑戦してしまう理由なのかもしれない。

ちなみに、私は早めに財布を用意し、小銭を確認し、臨機応変に支払える準備をする。また電子マネーの場合は、すぐにタッチできる状態にしておく。

これは私の他に、私のようにレジ待ちを競技のように捉えている人がいた場合、その人をガッカリさせたくないからだ。「あいつのせいで遅くなった」と思われたくない。

とは言えセミセルフレジの場合、いつものスーパーとは違う機械であると手間取ってしまう。その時は申し訳ないと思う。また最初の表に戻るが、自分が①~③の時も申し訳なく思い、いつも下を向いている。

ただガッカリしないで欲しい。「こちらへどうぞ」と新しいレジが解放されるというミラクルがあるからだ。

© 有限会社ルーフトップ