伊藤沙莉が風俗店のスタッフを熱演!「この役はタヌキの私が演じるべき」

「これは経費で落ちません」(NHK総合)、「生理ちゃん」(11月8日公開)などで印象的な演技を見せる伊藤沙莉が主演した「タイトル、拒絶」(2020年公開予定)が、第32回東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ部門で上映。Q&Aセッションに山田佳奈監督、伊藤、共演の恒松祐里、片岡礼子、池田大が登壇した。

本作は就職に失敗したヒロインのカノウが、雑居ビルの一角にあるデリヘル店でスタッフとして働くことになる物語。カノウや店に所属するデリヘル嬢たちがままならない人生を、もがきながら生きていく姿を描いている。劇団・□字ックを主催する山田監督の戯曲を映画化したもので、長編映画デビュー作となる。山田監督は満席の観客に向かって「『タイトル、拒絶』は、本日、ワールドプレミアです。皆さんにどう届いているのか、愛されているといいなとか、いろいろな思いで胸がいっぱいです」とあいさつ。

カノウを演じた伊藤は「脚本を読ませていただいて、シンプルに面白かったし、カノウ役を誰にも渡したくないと思いました。こういうビッグマウス的なことはあまり言わないんですけど(笑)、私がやらなきゃいけないと思いました。私はタヌキなので、タヌキのウサギに対する目線をリアルにお届けできるのではと」と、劇中でカノウが自分を「かちかち山」のタヌキに例えることを踏まえて、役に対する思いを熱く語り、役作りに関する観客からの質問に「カノウはどこにでもいるような普通の子。だから、普通であることに嫌悪感があって、できる自信もないのにカッコつけてデリヘルの世界に足を踏み入れようとする。常に葛藤がある女性なので、その葛藤をメインにカノウにアプローチしていきました」と答えた。

店一番の売れっ子だが、心に大きな傷があるマヒルを演じたのは「殺さない彼と死なない彼女」(19年)、「アイネクライネナハトムジーク」(19年)などに出演する恒松祐里。「お芝居で勝負している、心と心でぶつかり合っていける方々がキャスティングされているので、そこに呼んでいただいて光栄です。私にとって大きな転機になった作品なので、逆に監督になぜ私を選んでくださったのかお聞きしたいです」と、謙遜しつつ質問。山田監督は「マヒルちゃんは自分の傷を笑うことで逃していくけど、実は一番(ダメージが)積もっているという、とても難しい役。『散歩する侵略者』(17年)での恒松さんの、ひょうひょうとしているけど“重み”がある目がマヒルちゃんにぴったりだなと思って、お願いしました。撮影中はマヒルちゃんと一緒に真摯に生きてくださって、頼んでよかったと思っていました」と、キャスティングの理由を明かし、感謝を伝えた。

最年長のデリヘル嬢・シホを演じた片岡は「シホは悪か正義かといったら正義の方。これまで『愛の新世界』(1994年)などで風俗嬢を演じてきましたが、はっちゃけた役が多かったので、自分の集大成としてこの役をやりたいと思いました。監督のお人柄にもひかれましたし、カノウ役を、目の前で言うのは恥ずかしいですが(笑)、『榎田貿易堂』(18年)で大好きだった沙莉さんがやると聞いて、私もシホを逃すものかと思いました」と出演を決めた経緯を語った。

デリヘル店スタッフのハギオを演じた池田大はこの日、登壇した唯一の男性キャスト。「この中で僕だけがオーディションで役をいただきました。台本の前半を読んで、ハギオは物腰も穏やかだし、いいヤツだなと思っていたのですが、読み進めるうちに、イヤなヤツだと思うようになって…。僕が女性で、この映画に出てくる男性と付き合うなら、ハギオだけはいやですね(笑)」と言うと山田監督や女優陣から「そんなふうに思ってやってたの?」「いい人に見えたのに?」と驚きの声が上がっていた。

劇中ではデリヘル嬢同士のいさかいが起こるが、「撮影現場にはバッチバッチな雰囲気はなかった」と伊藤が言うように、監督とキャストの相思相愛ぶりが分かるようなQ&Aセッションだった。

取材・文/青木純子

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