犬童一心が感服。大林宣彦夫妻のドキュメンタリーに「ああはなれない」

2016年にがんの宣告を受けて以来、闘病しながら映画作りを続け、このほど、20年ぶりに故郷の尾道でロケをした新作「海辺の映画館―キネマの玉手箱」(20年公開)を完成させた大林宣彦監督。1977年に商業映画監督デビューをして以来、日本映画のトップランナーであり続ける大林監督と、妻としてプロデューサーとして彼を支える恭子さんの姿を追った「ノンフィクションW 大林宣彦&恭子の成城物語 [完全版] ~夫婦で歩んだ60年の映画作り~」(WOWOWプライム 11月17日午前10:00)が、11月1日、第32回東京国際映画祭で特別上映され、企画・構成のほか本作でインタビュアーを務めた犬童一心監督(写真・左)と、演出・撮影の高橋栄樹氏(写真・右)がQ& Aセッションに登壇した。

本作を企画したきっかけを、犬童監督は「僕は10代の頃から8ミリ映画を撮っていて、大林さんはその頃からの知り合い。同じ成城の住人でもあります。最近は大林さんというと“反戦の映画作家”という視点で語られがちですが、彼はそれだけではない人。僕が大林さんのことを撮るなら恭子さんがいなきゃいけないと思っていました。(高橋)栄樹さんは栄樹さんで大林さんのドキュメンタリーを撮りたいと言っていたので、相談して一緒に作ることになりました」と振り返る。

高橋氏は「映画監督の集まりなどで大林監督がお話しされているのを聞いたことがありますが、オフィシャルな場で話しているのとは違ってカジュアルなんですね。言外のたたずまいから学ぶことも多い。なので、カジュアルな部分を伝えながら、大林監督から見た映画史のようなものを撮ろうと思いました」と制作に臨んだ姿勢を語った。

大林監督とは長年の親交がある犬童だが、「知人から『大林さんは映画のフィルムを食べて生きているような人』と言われたことがありますが、本当にそうだなと実感しました。一言のせりふを考える時にも朝から深夜まで、ずっと脚本を読んでいるし、編集をする時も、ずっと機材の前に座っている。まさに“全身全霊”で映画を作っているんですよ」と、今回、密着してあらためて気付いたことを語り、「ああいうふうにはなれないなという見本のような人」と、大林の映画に対する集中力の高さに感服していた。また、高橋氏からは「本作を撮影している時に、大林監督が体調を崩されました。さすがにカメラを止めましたが、逆に恭子さんから『今、カメラを回した方がいいと宣彦が言っているから、そばにおいでよ』と言われてしまった」と、大林夫妻らしい撮影秘話が明かされた。

観客から本作に対する大林の感想を尋ねられ、「まだ、大林さん本人からは直接、感想は聞いていないんですよ。恭子さんからは、この作品を見た人から『よかった』と言われたとか、『かわいかった』と言われたとか、LINEが送られてくるんですけどね(笑)。でも、何も言ってこないということは、大林さんも気に入ってくれているんじゃないかな」と犬童巻頭。最後に「これから公開される『海辺の映画館―キネマの玉手箱』をぜひ、見てください。(大林監督が)全身全霊で作った映画を体感してほしい」と締めくくった。

取材・文/青木純子

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