【プレミア12】“1点OK”の守備で点が取れなかった日本 元オリ監督森脇氏「ゲームのあや」

アメリカ代表に惜敗した侍ジャパン日本代表【写真:荒川祐史】

森脇浩司氏が解説、僅差の勝負で勝敗を分けたポイントとは?

■アメリカ 4-3 日本(プレミア12・12日・東京ドーム)

野球日本代表「侍ジャパン」は12日、東京ドームで「第2回 WBSCプレミア12」(テレビ朝日系列で放送)スーパーラウンド第2戦のアメリカ戦に臨み、3-4で惜敗した。ソフトバンク、巨人、中日でコーチ、そしてオリックスでは監督を務めた森脇浩司氏は侍ジャパンの今大会初黒星をどう見たのか。

 常に追いかける展開となったが、ビッグイニングを作らせず1点差でプレッシャーをかける日本の野球はできたといえる。先制、中押し、ダメ押し、これは誰もが望む展開だが言うは易し行うは難しだ。追いかける展開では7回を迎えるところで1点差なら日本にも十分勝機はある。強力なブルペン陣に切り札・周東を存分に使える。ただ、一つ注文を付けるなら先に点を与えない、先に点をもぎ取れる最善の準備をして勇気を持って大胆に動いてもらいたいということだ。日本の長所に反発力は勿論だが、勤勉さ、目覚めの良さがそれを上回る。残りの試合に期待したい。

 どの得失点も貴重で尊いものだったが、昨日のゲームでは7回の1点が悔やまれる。同じ釜の飯を食った大野だけに敢えて言わせてもらう。稀にみる好青年でポテンシャルは高く抜群のセンスをしている。なのに時々落とし穴にはまる。誰からも愛される素晴らしい人物だ。良い時と悪い時の差が大きいという特徴があるので見極め易い投手でもある。

 昨日は良い状態で打者を圧倒していた。大野に限らず完璧な投球をしたからといって全ての球が完璧だったわけではない。時に投げミスを打ち損じて助けてくれるケースもあるが、投げミスが狙ったところよりボールゾーンに外れるので事が起きないということなのだ。伏線はあった。6回2死の場面で打席に9番・チャタム。カウント0-2からアウトローに投げるつもりのツーシームがアウトハイに。7回にアデルにホームランされたボールとほぼ同じ球だった。

 今年の大野ならそれに気づき、心して7回のマウンドに上がったと思うだけに悔しかった。大舞台、ビッグゲームこそ日頃の習慣が出るものだ。小さな事の積み重ねが偉業に繋がる。桑田(巨人)は投げる前にいつもボールにつぶやいていた。そう、確認をしていたのだ。私の親友の津田は「弱気は最大の敵」と書いたボールを闘病中も枕元に置き、それを持って旅立っていった。少し話がそれたが、戦いは始まったばかり、大野含め投手陣に多いに期待したい。

アメリカの守備シフトは通常の守備位置、確実に1点が入る状況…

 打線に関しては取れるべきところで点を取ることができなかった。結果的に1点を奪ったが4回1死三塁の場面で吉田が左飛球に倒れた場面。ここはフルカウントと追い込まれながら反対方向を意識した打撃を見せたが打ち上げる形になった。そして7回1死二、三塁で山田はファーストストライクを浅い左飛となった。

 ここでの共通点はアメリカは「1点OK」の考えで前進守備ではなく通常の守備位置。ゴロを打てば確実に1点が入る状況だった。吉田、山田は自チームでは中軸打者で長打力、アベレージ、状況に応じた打撃ができるオールマイティーな打者でもある。追い込まれるまでは自分のベストの打撃をするのは勿論、必要で間違いではない。

 山田のスイングも紙一重だったし、吉田は追い込まれてからしっかりと反対方向も意識していた。2人とも決して好き勝手の打撃はしていないが、“ゲームのあや”だったかもしれない。国際大会では経験したことのない投手と対戦するが“待ち”は必要はない。ペナントと違い先発投手はすぐに代わり継投に出る。タイミングを掴んでもすぐにまた違う投手と対戦する。強引と積極的は全く意味が違うことを頭に入れてほしい。条件を付けた“積極性”は国際大会では必ず必要になってくるのだ。

 私なりに先制点を奪われた場面も振り返っていきたい。1死三塁で前進守備を敷いた日本だがこれは正解だ。僅差の勝負になることは分かっているし相手は下位打線に入っていくところ。当然の策だ。一塁線へのゴロで浅村は捕球しベースを踏んで本塁へ返球したがわずかに逸れて先制を許した。

 私なりの見解になるが詳しく説明しておこう。捕手へ完璧な返球をしていてもセーフだったかもしれない。一塁線へのゴロで流れながら捕球するもベースを踏むことで崩れかかった体勢を立て直すことができ、強い返球が可能となった。無理やり踏んだのではなく、あくまでも流れの中でのものだ。ベースがなければもっと難しいプレーになっていただろう。

 しかし、返球直前に三塁走者を見る余計な間があった。背中越しのプレーなのでベースを利用したあと躊躇なく返球という形がプレーの終わりとしては欲しかった。その前に全員で確認すべきことがある。それは三塁走者がどう動くかということ。

 打者が見逃した際、ファールした時に観察しておくのだ。カウントで変わる場合はあるが、ギャンブルスタートなのか、ゴロゴーか、ストップなのか、必ずキャッチできる。私も現場にいる時、このケースでは必ず内野手と確認をしていた。理に適わない動きをする走者ならライナーで戻れなかったり、捕手のピックオフプレーの餌食になる。浅村は出始めた時から常に注目していた選手で打撃だけでなく、日本で有数の内野手になる素質を持っている。今後が楽しみで仕方がない。

先発・高橋がピンチの場面で見せた“入り方”

 先発の高橋はペナントで見せた持ち味を少し発揮できなかった。彼の武器は“変則”だけでなく力強い直球と緩急を使った制球力に大胆かつ繊細さを心身で表現できるところだ。勝負事は後手を踏まないことが大切だ。国際大会の難しさなのか珍しく後手に回るケースが見受けられた。

 若いとはいえ大舞台も経験済みだし、調子の良し悪しに左右されない素晴らしい投手なのだ。2回1死一、三塁でダルベックに左翼線へタイムリーを浴びたのは初球の変化球。そのあと点を与えない踏ん張りを見せただけにあの入り、あの一球が悔やまれる。ただ、大きな自信となる部分があったマウンドでもある。彼なら気付いているだろう。ペナントを見ていると処理能力と学習能力の高さにはいつも感心していた。今後の彼から目が離せない。

 これは私の野球観になるが5回1死一、二塁から菊池が遊ゴロ併殺に倒れた場面。いずれも四球で出塁した走者で菊池、近藤、誠也と続きじっくり打たせたい場面でもある。しかし、投手のクイックタイムのアベレージは1.80で塁上は外崎、丸と役者は揃っている。仕掛ける準備はあったのか興味深い。

 いずれにせよ、他国は日本の足に過敏になっている。5回1死一塁で外崎を警戒するあまり丸にも四球を与え、7回1死一塁同じ組み合わせでは初球を投じる前に全力で3球連続牽制、カウント1-1からウエストまでした。いずれも2点差だったが多いに仕掛けて良いケースではある。

 アウトにできる牽制を持つ投手は少なく大半がクイックモーションに難がある。二塁走者に対しての牽制、クイックに至っては更に落ちる。アウトになってはいけない場面はあっても走っていけない場面はない。少し点差がある時などはそのチャンスは膨らむ。ビッグゲーム、短期決戦は試合巧者でなければ勝てない。パワーでは少々劣っても試合巧者という点では日本が一番だと信じる。選手任せと選手主導は違う。手綱を締めながら伸び伸びプレーさせ、自在に使いこなす稲葉監督の手腕に今後益々期待したい。

 今大会、初黒星を喫した侍ジャパンだが勝敗を分けたのは本当にごくわずかな差だった。この1敗に悲観することは全く必要ない。日本の野球はできているだけに、まだまだ楽しみなゲームを期待できるはずだ。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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