生まれたばかりの赤ちゃんの写真、お返しします-。四半世紀にわたってお産直後の家族写真を撮り続けてきた「中部(なかべ)産婦人科」(京都市伏見区)が、写真の返却を呼び掛けている。大切に保管された写真は1万枚以上。生年月日や母親の名前は記されているが、カルテが残っておらず、返却する手だてがないという。同医院は「赤ちゃんにとって人生最初の写真。取りに来ていただければうれしい」としている。
赤ん坊を母親が抱き、隣で笑みを浮かべる家族たち。アルバムには、多幸感いっぱいの写真がずらりと並ぶ。
中部産婦人科は開院した1980年から2006年末まで、出産直後の家族を記念撮影してきた。院長だった故中部普行(ひろゆき)さんと、医院を切り盛りした妻の瞭(あき)子さん(80)は「スマホですぐ自撮りができる今と違い、当時は貴重で喜ばれました」と振り返る。出産時の立ち会いも今ほど普及しておらず、生まれてから家族に連絡し、到着を待って撮ることもあった。
インスタントカメラで2枚撮影。1枚は家族に渡し、もう1枚は待合室の掲示板に貼り出した。後にアルバムに入れて保存、その数は53冊に上る。
保管スペースの都合や中部さんが一線を退いたこともあり、アルバムの処分を近年検討してきたが、「捨てるのは忍びない。家族に返したい」。ただ、カルテは保存期間が過ぎたため廃棄しており、家族とも連絡が取れないことから、7月から院内で返却の案内文を張り出している。
これまでに100人ほどが引き取りに訪れ、「懐かしい」「みんな若いわ」などと喜びの声が寄せられているという。「写真の赤ちゃんが大人になり、またここで出産したお母さんもいる。当院の歩みそのものです」。ずしりと重いアルバムを、中部さんは感慨深げに見つめた。