「障害あっても好きなことできる」 ビブリオバトルに出場する中途視覚障害者・佐藤順子さん 点字習得、本との出合いに引かれ

「本が好きという気持ちがあれば参加できることがうれしい」と話す佐藤さん=佐世保市立図書館

 長崎県佐世保市春日町の主婦、佐藤順子さん(60)は40代で目の難病が発覚した中途視覚障害者で、物の形と色が判別できない。年々症状は進むが、少しずつ点字を習得し、今でも本を手に取っている。昨年からはビブリオバトルにも挑戦。16日には市内の予選会を勝ち抜いたバトラー(発表者)が集まる大会に初出場する。「どんな障害があっても好きなことはできる」と心待ちにしている。

 8日午後。佐藤さんは宮地町の市立図書館で財布から身分証を取り出した。裏面に記された名前の上にはいくつもの小さな突起。「これは『ジュンコ』ではなく『ジユンコ』と間違っていて」。濁音の一つ一つに異なる表記がある点字の複雑さを明かした。

 2001年、運転免許を更新する際に視力の低下を指摘された。「老眼かな」。そう思ったが、市内の病院で告げられた病名は「網膜色素変性症」。視細胞が死滅して視野が狭くなり、視力が低下する進行性の病気だった。途切れて見える街中の電線、何度も焦点を合わせなければ認識できない文字…。当たり前のように見えていたものを認識するのが難しくなった。「何もできなくなるんだ」。不安と恐怖感が襲った。
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 数年後、知人の紹介で同じ中途視覚障害の女性に出会った。「しばらく休んでいい。でも、できることもあるよ」。自分より重い障害を抱えながら、盲導犬を連れてどこにでも出掛ける前向きな姿勢に触れ、「落ち込んではいられない」と奮起した。

 子どものころから読書好きだった。無理だと話す周囲をよそに、点字の勉強を始めた。どうしても読みたかったのはパンのレシピ集。子育てで壁にぶつかったとき「食べてさえもらえれば何とかなる」と続けた大切な趣味だった。だが点字の種類は想像以上に多く、けがや乾燥などその日の指先の状態が読み取れる内容を左右する。ひたすら点字図書を開き、読めると納得できるまでに約10年かかった。

 ビブリオバトルに初めて関わったのは約2年前。市内で開かれた際に視覚障害を抱える仲間の応援に行った。バトラーの思わず読みたくなるような話の上手さや、新しい本との出合いに引かれ、いつしか自身も舞台に立つようになった。

 観客がいると思う方向に向かい、ゆっくりと分かりやすい言葉で話す。「目が見えなくなってあがらなくなった」と笑うが、観客が自分の話に引き込まれたと感じる瞬間が楽しい。

 本番では、自分だからこそ話せると選んだノンフィクション作品を取り上げる。「本が好きという思いがあれば誰でも参加できることがうれしい。どんな本の話が聞けるか楽しみ」と声を弾ませた。
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 「ビブリオバトル2019inSASEBO」は16日午後2時から、佐世保市三浦町のアルカスSASEBOで開かれる。

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