【プレミア12】周東、甲斐野が欠かせないピースに 元オリ監督森脇氏「大きな意味を持つ大会」

09年WBC以来10年ぶりの世界一に輝いた侍ジャパンナイン【写真:荒川祐史】

元オリックス監督の森脇氏が韓国との決勝戦を振り返る

■日本 5-3 韓国(プレミア12・17日・東京ドーム)

 野球日本代表「侍ジャパン」は17日、東京ドームで行われた「第2回 WBSC プレミア12」決勝戦・韓国戦を5-3で逆転勝ちし2009年の第2回WBC以来、10年ぶりの世界一に輝いた。宿敵・韓国と2戦連続に渡り死闘を繰り広げた侍ジャパンをソフトバンク、巨人、中日でコーチ、そしてオリックスでは監督を務めた森脇浩司氏が振り返った。

 世界一のチームを決めるに相応し好ゲームだった。まずは両チームのスタッフ、選手、そして首脳陣に心から敬意を表したい。これまで何度も激戦を繰り広げた日韓戦はやはり最後まで手に汗握る試合になった。

 韓国にとってみれば初回に2本塁打で一気に3点を奪い主導権を奪う素晴らしい立ち上がり。一方、日本は先発の山口がリズムを掴む前に3点ビハインドの形となり苦しい展開になったがその裏の攻撃で流れを踏み留めた。

 日本の4番としてここまで素晴らしい打撃をみせてきた鈴木のタイムリーで全員が「まだまだこれから」と思ったに違いない。あの場面が無得点に終わるとしばらく沈黙が続く可能性もあっただけに大きな1本だった。韓国の先発ヤン・ヒョンジョンは角度ある直球が武器の左腕。彼が持つ一番のボールを打ち返したことが最後までヤン本来の姿にさせなかったところだろう。攻撃陣には大きな勇気を与え、ヤンには強烈なダメージを与えた。

 2番手で登板した高橋も前回の登板からきっちり修正できた。山口が1回で降板したがこの試合は総動員で勝ちきることは前提だっただろう。2回からの登板も準備は出来ていたが、持ち味を発揮し肝が据わった度胸満点の投球を見せてくれた。3回の近藤が一塁走者のタッチアップを刺したプレーも大きかった。丸の声でのアシスト、躊躇なく一瞬のロスもない正確な送球、菊池のしぶといタッチ、チームで取ったアウトだ。

 これが決勝の舞台で出来ることが日本の強さ、近藤の強みだ。余談になるが対戦相手としてベンチから内野を守る近藤の成長をいつも楽しみに注目していた。少し送球に不安を抱えていたが全てをさらけ出し身体を張っていつもひたむきに取り組んでいて、その姿勢は練習においても同じで心から応援したくなる選手の一人だった。ビッグゲームこそ日頃の習慣が出るもの。近藤の送球を見た時には強い感動を覚えた。

アメリカ戦での1敗がチームをさらに強くさせた

 語るまでもないが初回以降を無失点リレーで凌いだ投手陣も見事。強打の韓国打線、そして比較的狭い東京ドームという地で最大限の力を発揮した。日本の“お家芸”ともいえるバッテリーを含めた守りの野球を見せられたのではないか。

 アメリカ戦での1敗がチームをさらに一つにしたと思う。あの試合ではどこか本来の日本らしい野球ができていなかった。少し状況判断が出来ていなかったり、ミスをしてはいけないという心理から積極性に欠ける場面もあったが、その負けを引きずらなかったことが大きい。肩の荷が下りたのか、ふっきれた侍の姿があったように見えた。打線が点から線、そして円となり勝ちきるゲームを作っていった。

 今大会は誰一人欠くことができないチームではないだろうか。先発、控えなど役割はあるが誰が試合に出ても「何かやってくれる」という期待感、そして結果を残し稲葉監督の采配に応えた。ベンチ入りした選手全員が戦力として働き、チームが一丸になる駒を揃えたのも大きかった。

 丸に関しては、移籍一年目で日本シリーズまで戦い抜き一息ついているところでの急遽の招集だったが、タフさ、ひたむきな姿勢には改めて頭が下がる。坂本も体調が良ければバッティングで苦しむことはなかったと思うが最後に存在感を示し、2番坂本がしっかり機能した。周東、甲斐野は世界大会に欠かせないピースであることを存分に示したし、更に大きな自信を得たことだろう。何より稲葉監督が一番手応えを感じ、しっかり東京五輪を戦うイメージが出来たのではないだろうか。いずれにせよ、今後に向けても沢山の収穫があり大きな意味を持つ大会だった。

 中軸の鈴木、浅村がコンスタントに役割を果たしたことで、序盤に不振だった丸、坂本をカバーし大きなプレッシャーを与えず復調することができた。お互いがカバーし合え、そしてチャンスを手にすることができるのが集団スポーツ野球の素晴らしいところだ。それを実践して見せた稲葉監督含め選手たちの躍動は多くの方に感動を与え、被災された方々には大きな勇気を与えることが出来たと信じたい。来年はいよいよ東京五輪が始まる。新しいメンバーも加わりチーム力はさらにアップし、今以上にファンの方々を楽しませてくれるはずだ。まずは10年ぶりの世界一を心から称えたいと思う。

◇森脇浩司(もりわき・ひろし)

1960年8月6日、兵庫・西脇市出身。現役時代は近鉄、広島、南海でプレー。ダイエー、ソフトバンクでコーチや2軍監督を歴任し、06年には胃がんの手術を受けた王監督の代行を務めた。11年に巨人の2軍内野守備走塁コーチ。12年からオリックスでチーフ野手兼内野守備走塁コーチを務め、同年9月に岡田監督の休養に伴い代行監督として指揮し、翌年に監督就任。14年にはソフトバンクと優勝争いを演じVの行方を左右する「10・2」決戦で惜しくも涙を飲んだ。17年に中日の1軍内野守備走塁コーチに就任し18年まで1軍コーチを務めた。球界でも有数の読書家として知られる。現在は福岡6大学野球の福岡工大の特別コーチを務め、心理カウンセラーの資格を取得中。178センチ、78キロ。右投右打。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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