川崎・宮前トンネル女性刺殺の初公判 被告、殺人罪成立認める 量刑は争う姿勢

横浜地裁

 川崎市宮前区のトンネルで2006年9月、帰宅途中の女性が殺害された事件で、殺人の罪に問われた無職の男(39)の裁判員裁判の初公判が19日、横浜地裁(景山太郎裁判長)であった。被告は女性を2度刺したうち1度目の殺意を否定したものの、それ以外の点は「間違いありません」と起訴内容を認め、弁護側も殺人罪の成立を争わない姿勢を示した。

 起訴状などによると、被告は06年9月23日未明、同区梶ケ谷のJR貨物梶ケ谷貨物ターミナル駅下のトンネル内歩道で、近くに住む女性=当時(27)=の腹を刃物で刺し、さらに右胸を刺して殺害した、とされる。

 検察側は冒頭陳述で、「仕事や家庭生活でたまったストレスを発散するために、好みのタイプの女性が苦しむ表情を見たいという欲望が抑えきれなくなった」と指摘。その考えがエスカレートした結果、死ぬ間際の女性の表情を見たいと思うようになり犯行に至ったと経緯を説明した。

 「事件の3カ月前には車やオートバイに乗って女性を物色するようになった。好みの女性を見つけると、擦れ違いざまに体を触るなどして性的な興奮を味わうとともに、おびえた女性の表情を見てストレスを発散した」とも主張。事件当日は帰宅途中の女性を偶然見つけると、先回りした上で包丁を持って待ち受けたとし、最初から殺意を持った無差別の通り魔殺人との見立てを示した。

 弁護側は、2度目の胸を刺した行為について殺意を争わないとし、「殺人罪の成立は認める」と述べた。一方で「被告には性嗜好(しこう)障害があり、女性を傷つけたいという動機の形成に影響した。人格障害もあり、犯行を思いとどまらせる判断能力を減退させた」とし、量刑面で考慮するよう求めた。「刺すことを決めたのは、女性を正面から見てまさに好みのタイプだと思った時だ」とも述べ、事件の計画性についても否定した。

 事件は長らく未解決だったが、別の事件で服役中の被告が16年1月、関与をほのめかすはがきを県警に送付し急展開した。捜査員の聴取にも、現場の状況と矛盾しない説明をしたため、県警は刑期満了が近づいた17年10月に殺人容疑で被告を逮捕した。

 被告は女性刺殺事件から約半年後の07年4月に同区の路上で別の女性を刃物で襲ったとして、殺人未遂容疑で逮捕され、その後懲役10年の刑が確定した。

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